【注目デベロッパー】鬼才・ところにょり氏を特集。新作「おわかれのほし」、名作「ひとりぼっち惑星」を含む全作品を紹介。

公開日:

執筆者:高野京介

「ところにょり」特集画像

ライター高野京介がインディーデベロッパーを紹介するシリーズ。

今回は新作「おわかれのほし」のリリースが待たれる鬼才、ところにょり氏の作品を紹介したい。

Twitterで大ブームになった「ひとりぼっち惑星」。天候と連動した「あめのふるほし」。

「ひとほろぼし」 「ひとたがやし」  「からっぽのいえ」 も含め、ところにょり氏の作品群を紹介する。

最新作「おわかれのほし」のリリースが待ち遠しい!

「おわかれのほし」は、”自分を人間だと思い込んでいる機械たちの村で、ひとり生き残った子供の機械が死んだ村人の身体を借りて、ひとりひとりを弔い、きちんとおわかれをしていくゲーム”だという。

ところにょり氏の作品に漂う、寂寥感のある色彩や退廃的な風景。そして「死」を否応なく意識させられる世界と、描きこまれたガラクタ達は健在だ。

「弔い」をテーマにした今作は、今までよりも「作り込まれたグラフィック」「ゲームとしてのボリューム」がアナウンスされている。ところにょり氏の新境地として期待と注目を集めている。なお、配信時期は現在未定。配信され次第レビューするのでお楽しみに。

ところにょり氏のゲームの魅力

ところにょり氏のゲームは、スマホながらの手軽な操作や、ゲーム性の希薄な物語の中に、新しい体験をもたらすの不思議な余韻をもたらす。

ともすればカジュアルなネタに走りがちな放置・育成ゲームを踏襲しながらも、退廃的な世界を描いた美しく鮮烈なアートビジュアル、物悲しく美しいBGMが、プレイヤーの感情を大きく揺さぶっていく。

鮮烈な色彩とデザインの描きこまれたビジュアル、美しくも寂寥感のあるBGM。ダークながらもわかりやすいポップな物語。これを「雰囲気系」とくくるのはいささか語弊がある。

ところにょり氏は作家志望だったという。彼の作品群が、強烈な作家性を保持しつつ、文章だけでは決して表現できない、簡単操作なスマホゲームだからこそできる、インタラクティブな演出を盛り込んでいるのは、驚嘆を禁じ得ない。

それでは、ところにょりの過去作品を紹介していこう。

ユーザーどうしでランダムに“こえ”を送り合える機能がSNSで話題に。最果ての放置ゲーム「ひとりぼっち惑星」

他のユーザーの作成した文章を受信し、自分のメッセージを誰かに託す機能がTwitterなどで拡散され、大きく話題になった作品。

人類がいなくなっている世界では、残った人工知能たちが戦争を行い、お互いを永遠に壊し合っていた。

主人公らしき白ロボットはは人口知能の部品を拾って、アンテナを少しずつ拡張しながら、宇宙からのこえを受信していく。

SF的な世界観、初期作品「ひとほろぼし」「ひとたがやし」と世界観を共有しているのではと考察も盛んにおこなわれた。

ゲームをはじめる
ゲームをはじめる

→ このゲームアプリのレビューを読む

喪失の痛みをもゲームに。荒廃した世界で大切なものを守り続ける終末アドベンチャー「からっぽのいえ」

家庭用汎用性ロボットとなって日に日に数を増す敵から家を守り続ける。タップでロックオンし、ミサイルで撃ち落とすことが彼の日課となっている。

彼の記憶媒体の容量は限られており、からっぽの家を守るために家族との記憶データを消去することで、防衛システムをアップグレードしていた。

ゲームを進めるたびに、ロボットの尊い記憶は消えていく。大切なモノを守るために、そして、ストーリーを進めるため、プレイヤーは主人公たるロボットの思い出を否応なく犠牲にしなくてはならない。

プレイヤーの心の痛みをゲームに落とし込んだ演出手法は、辛口レビュアー納谷をして「遊ぶのではなく『プレイヤーの記憶にインストールする』ゲーム」と評された。

ゲームをはじめる
ゲームをはじめる

→ このゲームアプリのレビューを読む

現実の天候と連動した機能が話題に。「あめのふるほし」

機械しかいない、汚染された大気に覆われた惑星は、雨の日にだけ空気が澄み視界が晴れていく。

そのときにだけ動ける大きな機械が、仲間の残骸から遺言を拾い集めながら、ただひたすらに歩き続けていく物語。

他プレイヤーの力尽きた機械と遭遇すると「ひとりぼっち惑星」のように、遺言を拾うことができる。

勿論プレイヤーの遺言を残すことも可能。今作からフリック入力も可能になった。

現実に雨が降る日だけしか(広告動画を見ない限りは)プレイできないというユニークな仕様も話題になった。

ゲームをはじめる
ゲームをはじめる

→ このゲームアプリのレビューを読む

ところにょり氏の処女作。人類を滅ぼす絶望の物語「ひとほろぼし」

ところにょり氏の処女作は、巨大な怪物となって街を踏み潰していくカジュアルゲームだった。

プレイヤーは巨大で不気味な構造体となり、迫った街や迎撃に出てきた兵器を「へんなえきたい」で滅ぼしていく。

この構造体は何なのか?「へんなえきたい」とは何か?そもそも、何故、ひとをほろぼしているのか?

謎は謎のまま、抵抗してくる人類を滅ぼす人数はカウントされ、画面には殺害した累計人数が表示されていく。

ゲーム性は希薄だが、オリジナリティあふれるビジュアルは異色。そして寂寥感あるBGMの組み合わせはこの頃から健在だった。

ゲームをはじめる
ゲームをはじめる

→ このゲームアプリのレビューを読む

人間側の立場で前作の「なにか」と戦う。様々な改良が施されボリュームアップした「ひとたがやし」

今回は人間側に立って、前作の「なにか」と戦う作品。戦う兵士をできるだけたくさん量産し、兵士を使い捨てで戦わせ続ける。

ロボットは、土を耕し苗木を植え、「人」を実らせて前作の怪物「なにか」とたたかわせる。怪物を殺していくと、「かけら」から怪物のメッセージが表示され、正体が明らかになっていく…。

耕すことで得られる資材を投入して、戦車や戦闘機を強くできるようになる育成要素が追加された。

「勇気の出る薬」という薬を人に打って、特攻させやすくするというダークなシーンも鮮烈だった。

ゲームをはじめる
ゲームをはじめる

→ このゲームアプリのレビューを読む

世界観を共有した物語

なお「ひとほろぼし」「ひとたがやし」「ひとりぼっち惑星」の舞台は恐らく同一の世界であることがゲーム内でも示唆されている。

「ひとりぼっち惑星」の主人公たる、たった一人残骸を集め、宇宙のメッセージを受信する白ロボットは「ひとたがやし」にて「かけら」にされてしまった「ひとほろぼし」の残酷な怪物「せいたいへいき」が長い年月を経て進化した姿なのではないかという考察だ。

なんとも心に刺さる話。だとするとあのロボットの孤独の悲しみもさらに鮮やかに際立つ。こういう想像の余地が残す作風もところにょり氏の魅力だ。

刺さる人に強烈に刺さる「ところにょり」作品

「高校生のときの自分が文句なくおもしろいと思うゲームを作れば、刺さる人は必ずいる」ところにょり氏は講演にてそう語っていた。その才能や作品が届くべき人に届くのに、自分もその微力でも協力できたら幸いでしかない。

余談になるが、新作「おわかれのほし」では、私、高野京介がギターで演奏するバンド「古都の夕べ」のボーカル、あゆ巫女も楽曲に参加している。彼女が放つ妖精のようなウィスパーボイスにも注目していただきたい。

執筆者: 高野京介

ゲーム音楽に多大な影響を受けたギタリスト。

SuiseiNoboAz(スイセイノボアズ)などでギター・ピアノを担当。

2020年12月、フルアルバム『3020』をリリース。

「地球防衛軍シリーズ」「MOON」「さよならを教えて」「洞窟物語」「ロマンシング・サガ」シリーズなどが大好き。

激辛料理、サウナ、もつ焼きなどが好き。好きな水風呂の温度は16度。

愛するラーメンは荻窪の「味噌っ子 ふっく」。