PLAYISM代表、イバイ・アメストイ氏特別インタビュー【後編】東アジアとプロモーションが鍵となる日本のゲーム海外展開の未来

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執筆者:編集部

PLAYISM」を運営し、ゲームのローカライズやプロモーション、マーケティングを行うアクティブゲーミングメディアの代表イバイ・アメストイ氏のインタビュー。

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前編では、アメストイ氏の経歴から「ローカライズ」という仕事の重要性、そしてPLAYISMの今後の展開についてお届けした。

後編のテーマは、日本のデベロッパーが挑戦すべき海外市場や取るべき海外戦略。またPLAYISMとして海外に今後売り出していきたい国内のインディーゲームについてもお聞きした。

『STEINS;GATE』から伝説の国産アドベンチャー・ゲーム『GARAGE』といったディープな話題から、クラウドゲームの未来について話がおよぶ濃い内容となっている。

日本のデベロッパーがまず向かう先は東アジア!

―現在、スマートフォン・プラットフォームで戦っている日本の開発者たちは、これから海外展開しないと立ち行かないと考えています。

彼らは、海外で戦うことの重要性は理解していると思いますが、海外に対してどういうゲームをリリースし、どういったローカライズをほどこすか、まだまだ模索中だと思います。

その点に関して、ローカライズを専門に手がけてきたアメストイさんに、どういう戦略がありうるのかお聞きしたいです。

まずは海外で挑戦したいかと考える前に、実際に自分たちが作った作品が海外で売れるか、売れないか、本当に客観的に考えなくてはいけません。

日本国内と海外における違いのひとつは、海外では小規模のデベロッパーでも、まだまだもっとスゴイものをつくろうとしている人が多い。本当に同じiOSのゲームであっても、この中で「私は誰も作ったことのないものを作ってやるぞ!」という強い意志を持った人が多い。

日本ではそれに比べたら、いかに課金をうまくするかという点ばかりに焦点が当たっています。

―新しいものをやるというところが少ないですよね。

そうですね。もちろん、素晴らしいものは確かにあります。ですが、日本の作品だからといって必ずしも売れるわけではない。

漫画と一緒ですね。日本には本当に素晴らしい漫画もあれば、翻訳する価値もないものもあるのです。我々はその点については、率直に言います。これをローカライズするのは、やめたほうがいいですよ、といったように。

でも客観的に見て、これは遊びがいのあるゲームだと思ったら、まずは市場を選ばないとだめですね。英国に集中するか、欧州に集中するか。基本的に欧州は今はすごく難しいと思います。

―それはどうしてですか?

作品があふれているのと、大人のユーザーが多いという点です。欧州で人気があるものは、ほとんど北米産と欧州産のものが多いですよね。

要するに欧州の方々は課金アイテムでお金を使う前に、真剣に購入するかどうかを考えるのです。無料のものをダウンロードした後、ゲーム内課金で9ユーロを使うなら、最初から4ユーロ使います、といった考え方をしますね。

たとえダウンロード販売でも外国人が購入するときは、ものすごく真剣に考えた上で買うのです。そういう文化があるのにも関わらず、日本のゲームを外国人に馴染みのないアイコンでリリースしても、値段が400円とかだった場合、誰も買わないでしょう。そして、インターネットで調べたとしてもレビューがないとなると、ますます買わないでしょう。

要するに、外国人はひとつのコンテンツを相当の「気合いを込めて」買うのです!

 ―なるほど。同じアプリといっても、購入するときの「気合いの込め方」(笑)が違うのですね。では、日本のデベロッパーが向かう先としてどの地域が可能性がありますか?

私は、アジアがすごく大事だと思います。まずはアジアに向かうべきだと思います。 特にインドネシアなどの東アジアでは、日本のゲーム会社が健闘する可能性があります。それらの地域では、北米の会社よりも日本の会社の方が健闘する可能性が大いにあると思います。

―日本のゲームが東アジアで受けいれられるとお考えになる理由はなんでしょうか?

やはり、同じアジアという文化圏に属していることは大きいと思います。さらにタイムラインが同じことも重要です。そのため、サポートの体制もしっかりと築けます。さらに重要なことは、ある一つの地域でトップになったら周りから憧れの対象になるということもあります。

実際に、東アジアでは日本の文化は非常にリスペクトされています。アメリカ文化と並んで、彼らにとって日本文化は馴染み深いものなのです。日本のデザイン、食、服が好きといった層はたくさんいます。そういった文化に対するイメージを日本のゲーム産業もうまく使うべきなのです。

―つまり、日本のゲーム産業がグローバルに挑戦する過程で、まずは東アジアのトップを目指せということですか?

そうですね。もうそれが極めて大事なことだと思います。マレーシア、インドネシア、タイなどにチャンスがあると考えています。

マーケティングとプロモーションの重要性

―ターゲットとなる市場を設定した後に、取り組む課題は何でしょうか?

まず同時に三言語とかではなく、本当に言語を限らせて、1つずつをきちんとやるのが大切です。後はリリース前にしっかりとゲームの周りのデザインについて考えること。 例えばロゴやゲームのタイトルなども非常に大切です。

この点はなかなかデベロッパー側には理解いただけないことも多いです。我々が提案するロゴやタイトルが必ずしも採用されるわけではありません。ただし「これは無いな」と思ったら、土下座してでもそれは出さないようにお願いはしますね(笑)。

また弊社のような業者に頼めない小規模のデベロッパーであっても、一人でもいいのでネイティブの方に聞く。それくらいは無料でも頼めることなので、そういったことから始めるべきだと思います。

―要するに、ネイティブの意見にしっかりと耳を傾けるということですか?

まさにそうですね。そしてデザインやブランディングを決めた後は、いかにゲームを知ってもらうのかについて戦略を立てる必要があります。

ご存知の通り、今はストアに何を出してもすぐに埋め尽くされます。なので、Metacriticなどで評価されるためには、レビューサイトなどに積極的にリリース情報を伝える努力は必要です。

―しかしながら、私の個人的な印象として、日本ではレビューサイトのプライオリティやステータスが非常に低いように思えます。海外のゲーマーはMetacriticのMetascoreや各種レビューサイトの評価を非常に気にして見ていますよね。

ええ、よく見ています。

―ところが日本のユーザーは、あまりそういったものに頼らないというか、そもそもレビューサイトなどを知らなかったりします。文化としてレイティングしたり、スコアリングしたりすることにあまり馴染んでないように思えるのです。

確かにそうですね。それでも、やはり海外市場に挑戦するのであれば、その点はマストでやるべきなのです。

我々はお客様であるデベロッパーのプロモーションもやっており、週に何度かレビューサイトに連絡します。必ずしも良い評価をしてもらえるわけではありませんが、それでも絶対に必要なことです。

―つまり、レビューやレイティングをするサイトやメディアに、しっかりとプロモーションをかけて評価してもらう。たとえ厳しい評価であっても、そこで試すことが重要ということですか?

そのとおりですね!最近は特にそうですが、自分がすごく面白いと思うゲームをApp StoreやGoogle Playに出して、何もしないままそれが急に百万本売れるといった、そんなシンデレラストーリーはもう無いです。

―つまり、メディアに取り上げられて、評判になって売れるということですよね?

それしかありませんね。

ソーシャル、クラウド、同人ゲーム――日本のゲーム産業が向かう先

―日本のソーシャルゲームについてはどうお考えですか?日本では市場規模が爆発的に拡大していますよね。海外展開に関しても一定成功したと言われていますが、今後も成功していくことができるでしょうか?

私は非常に厳しいと思います。まだまだわからない部分もあります。日本はとても独特なライフスタイルで、電車に乗る時間が長いことなどもありますし。

―海外の方は、スマートフォンでもがっつり家で遊んでいる感じなんですかね?

基本的にそうですね。あとアイテムに日本ほどハマる人はいないと思いますね。

―海外でもスマートフォンでゲームをやるユーザーはカジュアルなユーザーだと思いますが、彼らがゲームにおいて重視するポイントはどこにあるのですか?

それはもう面白さですね。私はゲームが大好きで、ゲームを作品としてみているので、意見は偏っているかもしれないですが。でも私は、面白い作品、誰も作ったことがないような作品、もっとイノベーティブなものが必ず勝つと思います。

実際に、すごく売れているゲームは面白い。例えば、アングリーバードなどでも本当に良くできている。

―良くできていますね。日本人としては悲しいことですが、面白さという点では、スマートフォンのゲームは海外に負けているのは明らかだと思います。

確かにソーシャルゲームは国内で爆発的な成長をしています。でも本当は海外でヒットするようなもっと面白い日本のゲームももっと紹介していきたいのですが、なかなか見つからない。

ただ日本のスマートフォンゲームがそこまで成長したのは、DeNAとGREEのおかげだと思います。彼らは課金やデータの収集などにおいては本当にすごいイノベーションを起こしました。

―そうですね、データ収集や解析におけるイノベーションはあったと思います。ただ、小規模、中規模のデベロッパーが1つや2つのタイトルで世界に勝負するということはほとんどないですね。

そのとおりですね。やはり面白さ、目新しさを追求するしかない。後は、本当に商品としてきちんと売る努力をする。いろんなレビューサイトや新聞記者などに送って評価してもらう。

―2007年か2006年くらいに、日本のゲーム産業は急激に不振になったと言われていますね。

実際にその頃、スマートフォンが導入されてゲームのプラットフォームが拡大していきました。そして、パッケージからダウンロードへと、コンテンツのかたちがここ5、6年で急激に変化しました。

ですが、日本のゲーム産業はその変化に追いついてない感じがしますね。

追いついていないですね。今はスマートフォンのプラットフォームが拡大していますね。おそらく、あと2、3年後にはゲームはクラウドの時代になると思います。

―確かに先日、SONYがクラウドのゲームサービスであるGaikaiを買収しました。あまり報じられていないですが、SONYはかなり思い切った買収をしましたね。

本当にそう思います。例えば、GREEがOpenFeintを、DeNAはNGmocoを買収しましたが、ソニーのGaikaiの買収はもっと大きな意味を持つと思います。

基本的にゲームはすべて遊びという意味では同じものだと思っています。最終的にスマートフォンとプレイステーションで同じゲームを遊べるようになると思います。

PSモバイルはそのソニーとしての第一歩だと思いますね。やはり、一つのデベロッパーにはひとつの業界を変える力も義務もないと思いますね。でも、スティーブ・ジョブスはこの一つの端末で業界を変えたように、日本のモンスター企業も動くべきです。

―なるほど。では、そういったプラットフォーム業者や大企業とは別に、日本のデベロッパーはこれからどういう戦略をとるべきでしょうか?

デベロッパーはソーシャルゲームのプラットフォームから、一歩引いて自分たちが何をしているのか考えるべきだと思います。

今はどんな会合に行っても、自らのプラットフォームでソーシャルゲームを出せば儲かります、儲かりますと言いますよね。そして結局、お金のために作ってしまう。我々のようなローカライズ会社でさえ、ソーシャルゲームを作ってみようかと、思ったことがあるのですよ(笑)。

でも、やはり作品として作っている側は、自分たちがまず何をやりたいのかを考えるべきです。

―海外のゲーム開発だと、キックスターターみたいなクラウドファンディングで資金調達をしてプロジェクトがスタートするということもありますよね。そういう流れができれば、アーティスティックなものにお金を払う人も少しは増えてくると思うのですが。

ただし正直言えば、海外のゲームクリエイターはなんというか…ちょっとイッちゃっているところがありますね。「俺はピカソだ」みたいな人が多いです(笑)。日本には、そんな人いないですよ。本当にそこまでの自信があり、「俺がこれを作りたい」という意志さえあれば、キックスターターに頼ることなく、親にお金を借りてでも彼らは作りますよ。

―先日公開された「Indie Game: The Movie」でも、ゲームクリエイターの情熱には驚かされました。個人のお金を使い果たしてでも、必死にゲーム開発をしていますよね。

そうですね。例えば、『マシナリウム』を作ったアマニタ・デザインなどは、企業としても日本とはかなり異なります。彼らは企業というよりも、クリエイター集団ですよね。

私自身はもちろん、会社は会社として利益を追求すべきだと思います。ですが、彼らは自分たちのゲームを移植したり、ローカライズしたりする話を何十回と断ってきたのです。我々も最初は断られました。

なぜなら、彼らは自らの作品が他の形では表現できないと考えているからです。そのため、たとえ、ラインセンスからの売上があったとしても、断っています。やはり、良い作品を作る会社は作品に対するプライドを持っているのです。

マシナリウム

PLAYISMでローカライズされリリースされている『マシナリウム』。

―日本のいわゆる同人ゲームの開発者たちはどうでしょうか?

私はもともと2DSTGが好きなので、同人STGも好きな作品は結構あります。ただ、現在はまだ同人ショップや即売会などで流通が限られている印象があります。

確かにそうですね。同人ゲームの中には質が高いものもあります。

―ただ最近になって海外のパブリッシャーが日本の同人ゲームの英語版をSteamなどで販売する事例も増えてきています。

先日のIndie Royaleのバンドルでは日本の同人STGで有名なPlatineDispositif(紫雨飯店)のゲームが取り上げられていて、私も購入しました。

そうですね。我々もIndie Royaleを通じて、今年1つのバンドルで4つのタイトルを販売する予定です。

―それは期待しております。最近のインディーゲームにおけるバンドル売りの流行も面白いですよね。日本の個性が強い同人ゲームや質の高い小規模開発者のゲームもそういった形で販売すれば話題を集めて売れるのではないでしょうか?

それは間違いないでしょう。ぜひ挑戦してみるべきだと思います。ただ日本は今までコンソール天国で、そもそもPCゲームの文化がまだ育ってなかったということもあるでしょう。ただ時間の問題だと思います。いずれ、パッケージ販売からダウンロード販売へと徐々に移っていくでしょう。

まだまだ未開拓な個性的な「日本のインディーゲーム」

―私の個人的な印象ですと、日本のインディーゲーム開発者は、技術力のレベルにおいては世界と比較しても十分評価されるべきだと思います。

ただプロモーションなどにあまり積極的ではなく、質の高いゲームであってもまだまだ知らない人が多い。 頑張って制作しているわりには、プレイヤー人口が未だに少ない印象です。

そうですね。あとは問題としてはアダルトコンテンツが多いということもありますね。

―そうですね。いわゆる「同人ゲーム」というと、ほとんどノベルゲームのジャンルで、アダルトコンテンツが中心になってしまう。

そうですね。ですが、例えばノベルゲームでも『STEINS;GATE』などに関しては、本当にレベルが高いと思います。

シュタインズゲート

国内累計30万本の売上に到達したノベルゲーム『STEINS;GATE』

―そうですね!私も『STEINS;GATE』はXBox360で出た頃から興味がありました。その後、iOS版がリリースされたのでiPhoneでプレイしました。

プロットや物語全体の素晴らしさはちょっと驚きました。アニメが放映されたので、海外の方だとアニメを通して知っている人も多いと多います。

実はですね、PLAYISMとしては海外版の『STEINS;GATE』を非常にリリースしたいのです!あらゆるところに、ご連絡をはしているのですが(笑)。なかなか連絡がとれない。未だに交渉がうまくできていません。

おそらく、英語版の『STEINS;GATE』を買いたいですかというアンケートを取ったら、少なくとも5000人くらいの署名はすぐに集まると思いますね。実際にアニメの評判もありますからね。

―本当に頑張ってください!

いわゆるノベルゲームと呼ばれているものにも面白いものは本当にたくさんあると思います。ただし、やはり言語の壁があるからグローバルに活躍できない。その点でも、本当にローカライズの業務は非常に重要になると思っています。

また海外のインディーゲームシーンは、日本のノベルゲームに興味を持っているという感触もあります。例えば、Steamでリリースされている『Analogue: A Hate Story』という変わったインディーゲームがありますが…。

はいはいはいはい!

Analogue A Hate Story

個性的な海外のインディーデベロッパーのノベルゲーム『Analogue: A Hate Story』

―基本的には日本のノベルゲームを踏襲しながら、独特なシステムのゲームを作っています。あの作品も英語であるため、日本の多くのユーザーは遊ぶことができません。

ですが、日本語になったら話題になり、人気もでるのではないかと思っています。ビジュアル的にもゲーム的にも日本で受けそうだと思います。

なるほど。『GARAGE』というゲームご存知ですか?日本のまぼろしのアドベンチャー・ゲームです。2002年くらいのゲームですが、東芝EMIがPCソフト事業から撤退したためほとんど出回っていないPCゲームです。

今、我々はソフトを一つ持っているのですが、Macの古いバージョンでしか遊べない。それを移植できるか、考えています。本当に素晴らしい日本の優れた作品です。こういう作品も発掘して海外にリリースしていきたいです。これがゲームの画像です。

GARAGE

伝説の国産アドベンチャーゲーム『GARAGE』。

―ゴシック、かつサイバーパンクのような雰囲気ですね。

我々の会社の人間は全員プレイしました。『マシナリウム』に匹敵する作品だと、海外の人も言います。実際に、クリエイターとは話を進めていて、彼自身はリリースしたいと言っているんですが、ただ元のソースデータが無くなってしまって。

一時期、キックスターターで資金の募集を出してみようかなとは思ったのですが、おそらく一千万ほど必要なのでちょっと難しいですね。今後も検討していますので、可能ならリリースします。

―それは興味深いプロジェクトですね。長時間、貴重なお話どうもありがとうございます。これからも面白いゲームのローカライズや販売を期待しています!

イバイ・アメストイ氏

とても流暢な日本語でインタビューに応じてくれました。

 インタビュー前編

執筆者: 編集部