「蒼の彼方のフォーリズム」(あおかな)といえば、元々PCゲームとして知られている存在であったが、PlayStation VitaやPlayStation 4に移植されたり、2016年にアニメ化されたりと、いっきに認知度をあげた感のある、人気のコンテンツだ。
そんな「あおかな」のスマホゲーム「蒼の彼方のフォーリズム-ETERNAL SKY-」(あおかなES)は、2016年10月にリリースされ、100万DLを越えるスマッシュヒットとなっており、2017年3月には大型のアップデートも行われた。
ぜひともそんな「あおかなES」のお話を伺おうと、デベロッパーであるエディア社に押しかけてみたのだが、実は同社は、あの声優のナビでおなじみの「MAPLUS+」を手掛けた会社であり、起業してからスマホゲームに至るまでの道のりが非常に興味深かった。
ガラケーの情報サイトからソーシャルゲーム、そしてスマホゲームに至るまでの、同社の奮闘の歴史を、丁寧に紐解いていく形となったボリュームあるインタビューの様子を、ぜひともじっくりとご紹介していきたい。
今回、お話を聞かせてくださった、同社ゲーム事業のキーマンのおふたり、ゲーム事業 開発部の西澤 孝昌氏(写真左)、ゲーム事業 企画部の小山 敦氏(写真右)。
なお、本インタビュー記事は全6回を予定している。他の回の様子はこちらからご覧いただきたい。
目次
- 1 10人未満で始まったヒット作「ヴィーナス†ブレイド」のプロジェクト。
- 2 「ヴィーナス†ブレイド」の傍らでmixiアプリのプロジェクトにもチャレンジ。
- 3 ヒットしてから変わった社内の雰囲気。
- 4 自らSNSで絵師を捕まえた日々。
- 5 他社の競合を分析しながら、独自性と優位性を盛り込んで仕様を練り上げた。
- 6 いかに端末の制限ギリギリまで画像サイズを上げるか、がキモ。
- 7 ゲームのターゲットは「自分たち」。
- 8 「売れるもの」と「好きなもの」はバランスしていた。
- 9 第2回まとめ
- 10 オリジナルストーリーも展開する「あおかな」の育成RPG!明日香たちとフライングサーカス!「蒼の彼方のフォーリズム‐ETERNAL SKY-」
10人未満で始まったヒット作「ヴィーナス†ブレイド」のプロジェクト。
――小山さんが中心になってゲームを引っ張っていったということだと思うのですが、社内メンバーの反応はいかがでしたか?
小山氏:
半々ですね。
最初に「ヴィーナス†ブレイド」の開発に関わってくれたスタッフは、ゲームやってみたいって言ってくれた人間ですね。
その彼を中心に、必要なメンバーを集めていった感じです。
企画が私ともう1人、広報とかプロデューサー的なことをやっていたのがもう1人、開発が3、4人くらいでしたかね。
――人数的には、10人未満くらいの規模だったのですね。その時は西澤さんは、、
西澤氏:
当時、ぼくは別なことをやっていまして・・・。
一人でmixiアプリ作ってました(笑)
「ヴィーナス†ブレイド」の傍らでmixiアプリのプロジェクトにもチャレンジ。
――えっ、mixiアプリですか?(笑)
西澤氏:
「ボイス急便」というものがありまして。
小山氏:
あぁ、あったあった!(笑)
西澤氏:
「MAPLUS」という声優さんの声で案内してくれるナビのサービスをやっていたのですが、「右に曲がって」「左に曲がって」みたいな声の他に「誕生日おめでとう!」とか、色々なボイスを録ってありまして。
ちょうどmixiさんのAPIが公開されたタイミングで、マイミクに声優さんのボイスで「誕生日おめでとう!」とか送れたら面白いかなと思い、自宅でちょっと作って社内でプレゼンしたところ、じゃあやってみようか!みたいになったんですけど。
サービスは早めに終了しちゃいました……。
――当時、誕生日カードみたいなサービスいくつかmixiの中にありましたよね。声優さんの声で祝ってもらえるのは良さそうですよね。
西澤氏:
誕生日というのは1年に1回誰にでも必ず来るイベントなので、コミュニケーションが活性化しそうだと、説明に伺った時のmixiさんの感触も良かったんですよね。
――その頃、小山さんは「ボイス急便」についてはどう見ていたんですか?
小山氏:
ぼくはもう「ヴィーナス†ブレイド」が忙しかったから。(笑)
声を送るって新しいなとは思いましたよ。
――声優さんの契約が大変そうですね。用途が変わっちゃいますもんね。
西澤氏:
大変でしたね。その辺の契約は、全部巻き直しました。
ヒットしてから変わった社内の雰囲気。
――話をソーシャルゲームに戻すと、社内にゲームに興味をもっている方がいらして、少しずつ巻き込んでいったんですね。
小山氏:
そうですね。
おかげさまで「ヴィーナス†ブレイド」がヒットしたところで、社内的にゲーム事業を進めていく流れになってきた時に、ナビゲーションやってたエンジニアとかに「ゲームやろうぜ!」って。(笑)
――しかし、1作目から当てていけたのがすごいですよね。
小山氏:
当時ランキングの上位にいたカードゲームをとにかく分析しましたね。
どこがいいんだ、どこが売れるポイントなんだって、研究に研究を重ねた上で、綺麗な絵を高い画質で見せようとか、女の子しか出さないとか、ポイントしぼってゲームを作りました。
――なるほど。当時のゲーム作りで、大切なのは絵師さんとのコネクションだって聞いたことがあるのですが、その辺りはどうされていたのですか?
小山氏:
私と、一緒にやっていた人間が、アニメとかゲームとか好きで、この絵師さんいいよねとかそんな話をしつつお絵かき系のSNSで、声をかけていました。
自らSNSで絵師を捕まえた日々。
――その辺りの手法は、どうやって見出したのですか?
小山氏:
もう他所の会社さんがどうやってるかも分からないし、やったこともないし。
本当に手探りの状態でした。
絵が描ける人はどこにいるんだ?お絵かき系のSNSかな?みたいな。(笑)
――いやー、よく、やりましたね……。
小山氏:
そうですね。(笑)
あの時に依頼を受けてくださった作家さんには本当に感謝しています。
――発注時の金額とか、どうやって決めていたんですか?
小山氏:
もうよく分からないので、作家さんに「普段どんな感じですか?」みたいに聞いてました。(笑)
――えぇ!?予算どうやって取ったんですか!?
小山氏:
あんまりよく覚えてないんです…
お偉方集めて、プレゼンして、やります!って言ったのは覚えてるんですけどね。
――ワイルドすぎる……。
小山氏:
当時はお金のことをやってくれるプロデューサー的な立場の人がいたので。
――あぁ、、小山さんはやりたい!っていう係だったのですか?(笑)
小山氏:
そうですね。
プレゼン用のパワポ作って。
頑張りましたね、当時は。
西澤氏:
(深く頷く)
――西澤さんもそのお話は覚えてるのですか?
西澤氏:
うーん。
覚えて、、ない。(笑)
――雰囲気で頷くのやめてください。(笑)
小山氏:
予算は取ってあったはずですが。。
西澤氏:
なんかぼく見た気がしますよ。
パワポにざっくりいくらかかります、みたいな。
――っていうか、パワポでやってる時点で、ざっくりしか書けないですよね。(笑)
小山氏:
まあまあまあ。(笑)
他社の競合を分析しながら、独自性と優位性を盛り込んで仕様を練り上げた。
――仕様はどんな風に落とし込んでいったんでしょうか?
小山氏:
大まかな枠組みは、当時のトレンドというか、ランキング上位のゲームと大きく外さない形でいこうとしていました。
さらに、どう独自性や優位性を出していくか、というところですね。
――独自性や優位性、はいいですね。
小山氏:
1番はまずやっぱりイラスト。
画像ですよね。端末でいかに綺麗に出すか。
当時の端末の仕様が100KBまでという壁を、いかにギリギリに攻めるかというところを研究しました。
いかに端末の制限ギリギリまで画像サイズを上げるか、がキモ。
――ああ、、なるほど。
小山氏:
当時の他のタイトルって、イラスト自体はとても綺麗なのに、意外と画質が荒かったりすることがあって。
そこをいかに高い画質で届けるかはこだわりましたね。
ユーザーさんからも、大きな反響がありました。
ただ、一歩間違うと容量オーバーのエラーになって、絵が表示されないという。(笑)
――端末も沢山あって、大変だったんじゃないでしょうか?
西澤氏:
確かに当時は社内に実機が沢山ありましたね。
――ああ、西澤さんがやられていたサービスでも端末を沢山使っていらっしゃったんですよね。
小山氏:
この端末は何KBなんだけど、攻めすぎると危ないよ、とかありましたね。
――ギリギリまで攻めちゃうと、デバッグ大変だったんじゃないですか?
小山氏:
当時はデバッグを請け負ってもらえる会社さんがあることも知りませんでしたから。(笑)
社内のスタッフで手分けしてやりましたね。
自分たちで確かめてからお客様に届けたいと思ってました。
ゲームのターゲットは「自分たち」。
――当時作っていたゲームのターゲットは明確に決めてらしたんですか?
小山氏:
明確に、自分ら、でしたね。
同じくらいの年代の男たちで企画していたので、自分たちが可愛いと思う女の子を出そうぜ!って。
――何歳くらいだったんでしょうか。
小山氏:
当時30前後の男性、でしょうかね。
――それらの皆さんは、日々何に触れていたんでしょうか。
小山氏:
マンガ、コンシューマーゲームですよね。
「ヴィーナス†ブレイド」も、ファンタジーものがいいよねってなって。中二病ですね。
――「ヴィーナス†ブレイド」の女の子は武器の擬人化ですよね。
小山氏:
そうです。いわゆる伝説の武器。
エクスカリバーとか、天叢雲(あめのむらくも)とか、男の子が名前を聞いただけでワクワクしちゃうような。
そういうものを女の子にしちゃおうぜ!みたいな。
――当時、そういうのってなかったんじゃないでしょうかね?いってみれば、刀剣乱舞男の子向けみたいなことですよね。
小山氏:
そうですね。
当時あんまりなかったんじゃないかな。
そこも多分、刺さった要因じゃないかなって思うんですよね。
あれ系のはしり、ですよね。
――開発の皆さんは、コンシューマーゲームでは、どんなものに触れていらしたんでしょうか?
小山氏:
ファンタジー色の強いRPGとかですね。
――「ヴィーナス†ブレイド」拝見して、イースとかお好きかなって思いました。
小山氏:
朝から晩までスーファミのゲームをずっとやっていたような学生時代でしたかね。
その時の思い出は、作るコンテンツに影響しているような気はします。
「ヴィーナス†ブレイド」については、何かを女体化みたいなコンセプトがあったんですよね。
好みのイラストをネットで探してた時期があって、日本刀を持った女の子、みたいなのがよく引っかかってきていて。
それを擬人化してみるか、みたいな感じだったような。
「売れるもの」と「好きなもの」はバランスしていた。
――そういうもの(擬人化、女体化)は、プロデューサー視点で「売れるもの」と捉えていたのか、端的に「好きなもの」と捉えていたのかでいうとどちらなんでしょう?
小山氏:
うーん、どっちなんだろう。
うまくバランスしていたような気はします。
言われてみれば「売れるもの」かなとも思うのですが、絵師さん選んで仕事頼んでいたのは自分でしたし。
ともかく「売れないとやばい」っていう空気があったのは間違いありません。(笑)
――なるほど。当時、小山さんが中心になってゲームの企画を立ち上げていった時、幹部の皆さんとの温度差はどうだったんでしょうか。
小山氏:
まあ、温度差はありましたね。
ただ、ソーシャルゲームという業界に期待をしている部分はありました。
おまえら売れるもの作ってみろよっていうミッションを与えられたのが自分たちのチームだったんです。
だからゲームの企画を持っていったときに「いやいやいや」みたいな空気ではなかったです。
当時の経営層もやっぱり、いけるんじゃないかみたいな。やってみようみたいな感じでした。
――じゃあ、前向きでお話を聞いてもらえたのですね。
西澤氏:
市場としてはもう、かなりスゴイことになっていましたしね。
――経営層も、なにか突破口を求めているところへの、小山さんの企画だったのですね。手ごたえはあったのですか?
小山氏:
そうですね。かなり真面目にプレゼンしました。
まあ、今思うとよくあんなことやれたな、って思いますね。
――と言いますと?
小山氏:
当時は1発目だったから、よく知らないまま、盲目的に、いけるんじゃないかって突っ走ることができたんだと思います。
第2回まとめ
本インタビューの第2回目となる本稿では、「ヴィーナス†ブレイド」をどのようにして立ち上げたのか、お話を伺った。さすがの熱量というか、グイグイと企画を進めていた様子が伝わったと思う。
次回は、ヒットした「ヴィーナス†ブレイド」以降の動きについて伺っていく。
あおかなインタビューのリンクはこちら。
オリジナルストーリーも展開する「あおかな」の育成RPG!明日香たちとフライングサーカス!「蒼の彼方のフォーリズム‐ETERNAL SKY-」