ライター高野京介がインディーデベロッパーを紹介するシリーズ。
今回は僕が大ファンでもあり、新作がSwitchやVITAでも発売されているSYUPRO-DXさんを紹介したい。
目次
- 1 秀逸なセリフとシナリオで「泣ける」RPG風アドベンチャー
- 2 SYUPRO-DXとは?
- 3 SYU-PROのセンスを世に知らしめた出世作RPG「あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね」
- 4 古き良き日本のRPGへの溢れん愛「奴は四天王の中で最も金持ち」
- 5 最大の人気作、郷愁を誘う青春アドベンチャー「彼女は最後にそう言った」
- 6 孤島での消失事件を探る伝奇アドベンチャー「終わらない夕暮れに消えた君」
- 7 少年と女勇者が魔王を倒す王道RPGのふりをした超必殺技アドベンチャー「どうして勇者様はそんなに弱いのですか?」( #勇弱 )
- 8 Switch、VITA、Steamでも発売中!「世界一長い5分間」
- 9 「下積み時代」のカジュアルゲームたち。
- 10 SYUPRO-DXはスマホゲーム界における一輪の花だ
秀逸なセリフとシナリオで「泣ける」RPG風アドベンチャー
スマホで泣けるゲームというと、SYUPRO-DXの作品が真っ先に思い浮かぶ。
ドット絵のRPGと王道の世界観を美しいBGMが彩り、懐かしさをソソるセンチメンタルな演出を盛り上げる。そして、少しずつ王道の設定を裏切っていくシナリオのドライブ感が見事だ。
SYUPRO-DXの作品群には通底して優しさがある。誰もがエンディングシーンまでたどり着けるようなヒント、快適な操作性、何より、誰一人憎めない、人懐っこいキャラ達のセリフの節々からは人間愛を強く感じる。
SYUPRO-DXとは?
実はインタビューもして著書にサインまで貰ったくらいファン。
SYUPRO-DXは劇団員の横田純氏と、バンドマンでもある入間川幸成氏、そしてプログラマーの浜中剛氏の3人でやっているアプリメーカーだ。
横田順氏の軽妙なセリフ回しとシナリオ。
入間川幸成氏のセンチメンタルに訴えかける、RPG好きにはたまらないBGM。
浜中剛氏がプログラムした、スマートフォンでありながらストレスがない快適な操作性。
SYUPRO-DXの作品に共通する、どこかで見たような物語は、たくさんの作品をモチーフにした、メタ表現やオマージュに満ちていて、どこか懐かしく、少年少女や、かつて青春に生きていたおっさんの胸に刺さる。
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では、彼らの名作群をプレイバックしていきたい。
SYU-PROのセンスを世に知らしめた出世作RPG「あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね」
「ドブネズミ」は人付き合いが苦手な勇者が、酒場で仲間を募るために相手の心に響く呪文をぶつけまくる説得RPG。
ドラクエIIIの「ルイーダの酒場」をモチーフにした、冒険に出ることどころか、仲間を探すことすら苦手だった勇者が、コメディたっちながらも、ボロボロになりながらも仲間を築いていく姿に、人見知りの自分はめちゃくちゃ感情移入してしまった。
ゲームとしても歯ごたえのある難度で面白い。 iPhone/Android無料ゲームアプリでRPG・アドベンチャーの2カテゴリで堂々の1位を記録した、SYUPRO-DXの出世作だ。
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なんと書籍化もされ、小説やコミックになっている。
古き良き日本のRPGへの溢れん愛「奴は四天王の中で最も金持ち」
現代を舞台にした「ポケモン」「マザー」みたいな雰囲気のRPG。
20XX年。
世界は「課金四天王」と呼ばれる
四人の悪人が支配していた。
ガチャに課金するユーザーが支配する、
腐敗と自由と暴力のまっただなか、
ヒーロー不在の世界で、少年たちは立ち上がる。
ファミコン、スーパーファミコン、ゲームボーイの時代を思い起こさせるドット絵はそのままに、課金偏重のソシャゲRPGに対するまろやかな風刺と、「MOTHER」「ゼルダの伝説」「ポケットモンスター」「6くらいまでのファイナルファンタジー」など、古き良き日本のレトロRPGたちに対する愛をぶつけた大作。
エニックスとスクウェアがしのぎを削って、名作を乱発してた90年代の匂いに満ちた傑作だ。またBGMも秀逸。ラスボス戦のプログレ具合は熱すぎる!
最大の人気作、郷愁を誘う青春アドベンチャー「彼女は最後にそう言った」
田舎のお祭りの日。主人公は4年前に亡くなった彼女の死の真相を知るべく、ループし続ける世界で捜査を続けていく、青春アドベンチャー。
ドット絵ながら、繰り返す世界で奮闘する主人公に「AIR」のような名作美少女ゲームを重ねてしまう人もいるだろう。もう君も僕も、立派なおっさんかもな!ハッハッハ。
あるいは、疎遠になった少年少女たちが再び団結する姿に「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」を彷彿とさせるかもしれない。哀愁のあるBGMと、泣き笑いできるシナリオが多くの心を打ち、SYUPRO-DX最大のヒット作となった。
アラサーたちが少年少女だった頃、テレビやパソコンの中の憧れでしかなかった、青春の物語がそこにある。エンディング後の裏エンディングまで泣くんじゃない。
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孤島での消失事件を探る伝奇アドベンチャー「終わらない夕暮れに消えた君」
「10年前の つづきをしよう」
あの日、行方不明になったともだち。
お祭りの日、みんなで埋めたタイムカプセルは見つからず、代わりに 埋めた覚えのない箱の中から、差出人不明の手紙が出てきた。
東京から遠く、フェリーと高速船を乗り継がないといけない離島、行方不明になった幼馴染からの手紙。謎は不気味さを帯び、やがて恐怖になり…そして、真実が少しずつ明かされていく。
叙情的な田舎の風景や謎めく物語には「ひぐらしのなく頃に」を感じさせる。祭りの日。夕暮れ。センチメンタルな空気の中にも、活き活きとした人物像が描かれている。
少年と女勇者が魔王を倒す王道RPGのふりをした超必殺技アドベンチャー「どうして勇者様はそんなに弱いのですか?」( #勇弱 )
「よかったら…魔王を倒すのを 手伝ってもらえないかな?」
ミステリー路線だった前2作と打って変わり、勇者と魔王、少年少女の出会い、と今回はまさに王道ファンタジーのRPG風のアドベンチャー。戦闘などの要素はなし。
そして随所に秘められた伏線。レトロRPG風に描かれたドット絵のグラフィック、燃える展開、胸が痛い恋模様、暴かれる真実。
王道かつ、お約束を見事に裏切ってくるシナリオ、モブキャラ一人ひとりにいたるまで人間味を感じるセリフ回しは健在だ。
エンディングまで誰でもたどり着ける低難度と優しいヒントに満ちているため、ネタバレなしでプレイしてほしい一作。
Switch、VITA、Steamでも発売中!「世界一長い5分間」
日本一ソフトウェアとSYUPRO-DXのコラボによるゲームソフト。
気が付くと、そこは魔王(?)の目の前。記憶喪失状態でラスボス戦からゲームが始まる衝撃的なストーリー。
アドベンチャーのような現在(魔王戦)と、レトロRPGのような回想を行き来しながら、勇者は5分間で、冒険を思い返し、本来の勇者としての自分を取り戻していく…。
Steam版やNintendo Switch版も登場。個人的にはダウンロードコンテンツとして、今までのサントラやブックレットを販売してくれているのが非常に嬉しい。即買いだ。
メーカー | 日本一ソフトウェア / SYUPRO-DX |
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対応機種 | Nintendo Switch™, PlayStation®Vita, Steam |
発売日 | 2016年07月28日 |
価格 |
PlayStationVita通常版3980円 [税抜] |
「下積み時代」のカジュアルゲームたち。
天井にめり込んでジャンピング土下座を決める鋼鉄の肉体を持つ男、パイルドライバーを失敗すると引退しようとするベテランレスラーなど、向こう側の世界観を模索するバカゲーアプリたちも見逃せない。
個人的には「彼はパイルドライバー」が好きだ。
なかには脚本の横田順氏の肉声が聴けるアプリもある。
SYUPRO-DXはスマホゲーム界における一輪の花だ
最後になるが、以前「夕暮れ〜」攻略記事を諸般の事情で最後まで書ききれなかった事を80億人にお詫びしたい。
そして、SYUPRO-DXの作品を駆け足で、愛情たっぷりに紹介したが、それでも彼らの魅力をきちんと説明しきれているわけではない。神は細部に宿るというが、シナリオやセリフ、BGMに忍ばせた、たくさんのゲームへの愛はやはりプレイしないと伝わらない気がする。
汚物を消毒しようとするモヒカンのザコ、道路を封鎖する警察。隠し通路の奥の宝箱。どこかで見たような世界に、ニヤリとさせられる瞬間。
RPGやアドベンチャーをプレイして、作者の気持ちを知りたい、シナリオを追うだけじゃなく、街の隅々まで探索したり、何度も話しかけたり、すべての選択肢、隠された要素をコンプリートしたくなるような思い、なかっただろうか?
自分はまだ、90年代のゲームを好きだった気持ちのまま、SYUPRO-DXの新作を待ち続けている。大人になっても、ゲームにワクワクできる。それは、こんなにも生きづらい世界における、ちょっとした自慢だし、希望だ。