東京ゲームショウのビジネスデイでは、「ソーシャルゲーム第2幕~新時代の展望~」と題されたトークセッションが行われた。
現在のSAP(ソーシャル・アプリケーション・プロバイダ)の中でももっとも勢いがあると言えるエイチーム、gumi、gloopsの3社の代表取締役がそれぞれ会社の歩みと今後の展開を語った。
目次
インパクトあふれる映像と世界観を売りに海外進出をはかるエイチーム
セッションはまず株式会社エイチームの代表取締役社長の林高生氏の発表で始まった。2000年に設立されたエイチームはソーシャルゲームだけではなく、インターネットとモバイル端末をベースとしたコンシューマ向けサービスを幅広く行なっている。
エンターテインメント事業では、ソーシャルゲームの「ダークサマナー」やネットワーク対戦の麻雀ゲーム「麻雀 雷神」などで知られ、アプリ★ゲットでも人気が高いゲームだ。他方、ライフサポート事業も手がけ、引越し価格の一括見積もりサイト「引越し侍」や結婚式場の検索・予約サイト「すぐ婚navi」などを展開している。
次にエイチームのソーシャルゲームの主力タイトルである「ダークサマナー」の紹介が行われた。本作は映像に非常にこだわったタイトルであり、ソーシャルゲームには珍しく豪華なトレーラーが用意されている。
また「ダークサマナー」は国内・海外で同時に展開するソーシャルゲームとして企画されており、ソーシャルゲームには珍しくBGMも付いている。
ゲームの世界観として「ダークファンタジー」を大きく打ち出すことで、欧米のユーザーにも入りやすいようにデザインされている。
また、いわゆる「ガチャ」を「召喚」と名付けたり、「カードの合成」を「生贄」と表現している点でも日本のソーシャルゲームに慣れていないユーザーが馴染めるように工夫したという。
このように海外展開のためにソーシャルゲームとしては非常にリッチに作りこまれた「ダークサマナー」は、iOS版が2012年2月、Android版が7月にリリースされ、ユーザー数は現在、200万人を突破している。
売上はiOS版だけで月商1億円に到達しており、Android版によっても増加しているという。
次に「ダークサマナー」が海外市場で一定の成果を収めた理由として、林氏は3つの要因を分析した。
第一に、エイチームでは100以上のソーシャルゲームを開発運営の失敗を経験してきた。「無限マラソン」と呼ばれたゲームは400万人のユーザーを集めることに成功したが、マネタイズに失敗、売上にはつながらなかった。また一定の売上を上げても、イベントを継続的に行えず、失敗した事例もあるという。
二点目として、エイチームが携帯向けMMORPGの「エターナルゾーン」を開発・運営してきた経験があげられた。MMORPGの運営を通じて、アイテム課金のモデルなどのノウハウが得られ、それを「ダークサマナー」に活かしているという。
三点目に「ダークサマナー」は当初から海外を意識した企画であったこと。海外のユーザーには日本独特のソーシャルゲームがまだ根付いていないため、先ほどのように「ガチャ」や「合成」といった特殊な表現を用いず、世界観にふさわしい「召喚」や「生贄」という言葉を選んだという。
最後に林氏は、エイチームは今後も世界に通用するタイトルをリリースしていくと展望を述べた。特に北米市場をターゲットとして、アメリカ・カナダ・日本の三ヶ国で同時リリースを行なうそうだ。
gumi代表、國光宏尚氏が考えるソーシャルゲームの社会的意義とは?
次に株式会社gumiの代表取締役、國光宏尚氏がgumiの紹介と共に、ソーシャルゲームの社会的意義と海外展開について報告した。
國光氏は高校を卒業後、世界30ヵ国を放浪した経験を持ち、海外の大学に入学後、映像関連の会社に入社した。
映像関連のエンターテインメント業界でも、インターネットやモバイルなど新しいメディアに取り組んでいきたいかったが、業界の保守性からなかなか上層部に理解が得られず、結果として自ら2007年に起業したという。
当初は携帯版Facebookといえるような世界初のモバイルプラットフォーム作ったが、コンテンツを作る企業が存在しなかったため、自社でソーシャルアプリなどのコンテンツ事業を展開。
その過程でmixiやMobage、GREEといった他社のプラットフォームにコンテンツをリリースすることになり、現在のSAPとしてのgumiを築いたという。
2010年の9月にGREEと戦略的提携を行ない、今後は海外向けコンテンツを数多くリリースしていくという。海外向けタイトル一作目として、国内のソーシャルゲーム「騎士道」をベースとした「KNIGHT LEGENDS」をリリースする予定。
また、gumiのソーシャルゲームの特徴は、既存の人気キャラクターやシリーズなどのIP(知的財産)に頼ることなく、オリジナルタイトルで勝負しているところだ。
次に國光氏はソーシャルゲームの社会的意義に話を移した。コンプガチャが社会問題化したように、ここ数年、ソーシャルゲームは世間から叩かれてきた。
國光氏によれば、それは何よりもソーシャルゲームの社会的意義をしっかりと説明できていないことが原因だという。
そこで國光氏はソーシャルゲームをテレビや映画、マンガといった既存エンターテインメント産業と比較を行ない、これまでのエンターテインメントが「余暇」において楽しむものであったのに対して、ソーシャルゲームが日常の中に溶けこむ形で楽しむという新しい特徴があると主張した。
ソーシャルゲームでは、通勤中、昼休み中でもプレイ可能であり、プレイヤー同士がお互いに協力し、褒め合うことで日常に彩りを加えると、國光氏は言う。
さらにGoogleやYahoo、YouTube、iTunes、Amazonといった現在のウェブサービス産業の多くが、自ら独自のコンテンツを生み出していないという点を厳しく批判した。
それらのサービスはユーザーに利便性を提供することはあっても、コンテンツ自体は本や映像、音楽なそ他のメディアから持ち出したものばかりであるという。
それに対して、ソーシャルゲームはインターネット初のオリジナルのコンテンツであると、國光氏は強調した。現在のネットの特徴である「双方向性」と「リアルタイム性」を活かし、ソーシャルゲームではユーザーと運営側が共にコンテンツを作り上げる新しい形のコンテンツだという。
この特徴的なコンテンツ制作のあり方を、國光氏は「リアルタイムプロデュース」と名付け、今までにない新しいエンタテイメント産業として強調した。
最後に日本のソーシャルゲームが海外で成功をする理由に話が移った。
Facebook上で寡占状態であったZingaと比べ、日本のソーシャルゲームは極めて高いARPPU(ユーザー一人あたりの売上高)を誇っている。このARPPUの高さは、日本のソーシャルゲーム業界の苛烈な競争に由来し、国内の大手SAPは課金率やARPPUを向上するノウハウは確実に蓄積してるという。
今後はDAU(一日当たりのアクティブユーザー数)を向上させることがポイントになるが、いずれにせよ、海外企業と比べ、国内SAPの課金ノウハウは数歩先を進んでおり、しばらくの間は国内ソーシャルゲームが海外市場を圧倒するだろうと、國光氏は予測する。
そして、日本経済が低迷する中で、日本の産業が復活するにはソーシャルゲーム業界しかなく、今こそが絶好のタイミングであると強調し、國光氏は発表を終えた。
圧倒的な速さで開発・運営を行なうgloops
最後の発表者は株式会社gloopsの代表取締役社長、川方慎介氏。株式会社gloopsは2005年の8月に広告代理店として出発、2007年10月にSNS「nendo」のサービスを開始するも失敗に終わったという。
その後、モバイルに特化したSNS「REAL」を公開し、そこでのコンテンツ事業からSAPとしての立場を築いた。
gloopsのソーシャルゲーム事業は、その開発力に特徴があるという。現在の主要タイトルは、「三国志バトル」、「マジゲート」、「オーディンバトル」、「ドラゴン騎士団」、「プロ野球カード」、「メジャーリーグカード」など人気作が多数であり、総会員数は1800万人を超え、売上も圧倒的で前期比で約6倍。まさにノリに乗っているSAPといえよう。
そんなgloopsが今後、取り組んでいくポイントは大きく3つ。川方氏は「Challege Social game」、「Challenge Global」、「Challenge Entertainment」という形でまとめ、説明を行った。
まず「Challege Social game」では、gloopsのソーシャルゲームが男性をターゲットしたバトル系ゲームに特化していることを説明した。リアルタイム性が強いソーシャルゲームでは、ハイスピードにデータ分析を行なうgloopsの専門部署が強みであるそうだ。
また現状のソーシャルゲームが仮想世界だけでのつながりに特化しているが、今後はリアルなつながりを取り入れたソーシャルゲームを開発していきたいという。
次の「Challenge Global」では、現在海外展開のため、アメリカやベトナムに子会社を設立しているという。さらにgloopsはMobageを運営するディー・エヌ・エーと包括契約を行っており、ソーシャルゲーム業界の「日本代表」として海外へ展開していくそうだ。
まずは、リアルタイムバトルが特徴の「オーディンバトル」、「ドラゴン騎士団」をベースとしたギルド系チームバトルのタイトル、さらにUnityを使用した「EPOC WARS」の3つのタイトルをリリースするという。
3番目の「Challenge Entertainment」は、gloopsが単なるゲームにとどまらず、エンターテインメント全般を担っていくことを示したものだ。
そもそもソーシャルゲームはゲームというより、インターネット上での新たなコミュニケーションツールであると川方氏は確認しつつ、スポーツ、テレビ、映画、教育、漫画など多用なコンテンツをソーシャルメディアを中心として提供していきたいと展望を語った。
そして現在、gloopsはSAP(ソーシャル・アプリケーション・プロバイダ)と呼ばれるソーシャルゲーム企業であるが、自らを「SEP」(ソーシャル・エンターテインメント・プロバイダ)と定義付け活躍していくそうだ。
海外展開で課題となる人材獲得、ブランド化を狙ったコンテンツ戦略
以上、SAP代表者三名の発表が終わったところで、トークセッションに移った。
まずディー・エヌ・エーとの包括契約の狙いについて質問されたgloopsの川方氏は、ディー・エヌ・エーが持っているマーケティングノウハウに大きく期待していると応じた。
一方で、gumiの國光氏はGREEとの連携を強めることを強調した。
さらに、國光氏は人材調達の難しさについて説明を行った。
北米ではトップクラスのクリエイターやエンジニアを獲得しようとも、日本のSAPの知名度は国外ではまだまだ低いため、ディズニーやFacebookといった巨大企業にはかなわない。そのため、今回報告を行った3社ともアジアの拠点を重視しているという。特にベトナムが賃金やビジネス文化の共通性などにおいて、良い環境がそろっているそうだ。
また、ソーシャルゲームの内容についても議論が行われた。サイゲームズの「神撃のバハムート」が成功したことで、現在主流のカードバトル系のゲームが海外でも受け入れられるという見方は強まっている。エイチームの林氏は、ゲーム内容はカードバトル系のままに、世界観を押し出していくことで、まだまだ健闘する余地があるという。
一方、gumiの國光氏はゲームの仕組みよりもコンテンツそのものに興味があると語った。マリオやミッキーマウス、ポケモンといった既存のIPに負けないコンテンツを作ることが使命であり、自分たちが作ったコンテンツが100年先まで生き残るのを目標としているという。
さらに、ディズニーやピクサー、ジブリといった企業が「壮大なるワンパターン」を繰り返しているとことに注目し、gumiのソーシャルゲームにおいても誰がやっても「gumiのソーシャルゲーム」とわかるような「お約束」を仕込んでいるという。
具体的には、「道シリーズ」と呼ばれる「任侠道」、「海賊道」、「騎士道」という三タイトルは、「30代、40代男性の中二病心をくすぐるような世界観」を意識しているという。
以上、本セッションは現在、勢いに乗っているSAP3社の特徴と共通点が浮かび上がった興味深いものであった。
個人的には、gumiの國光氏が語った「ソーシャルゲームの社会的意義」が印象に残った。コンプガチャ問題以降、ソーシャルゲームの社会問題化が顕在化する中、SAPの役割は効率の良い課金モデルや運営を考えるだけではなく、自らがエンターテインメント産業、コンテンツ産業で果たす社会的意義をアピールしていく必要を強く感じた。
人材獲得や利益率に終始し、PR活動が後手に回っているように感じるソーシャルゲーム業界の中で、國光氏の語る「ソーシャルゲームの社会的意義」は完全に納得が行くのものではなかったにしろ、今後のソーシャルゲームの新たな可能