ライター高野京介がインディーデベロッパーを紹介するシリーズ。
今回はスマホでの2Dアクションにおける「ケロブラスター」「PINK HOUR」などを輩出した、そして個人開発ながら、世界的ヒットになった名作「洞窟物語」の作者である開発室Pixel(Studio Pixel )を紹介したい。
目次
開発室Pixelの魅力〜作り込まれたクラシック2Dアクション
今更だが、開発室Pixelの特徴を一言で言うと「柔らかいドット絵の2Dアクション・シューティング」になるだろうか。
かわいらしいキャラと優しいセリフの数々。懐かしくメロディアスな8bitサウンド、プレイヤーの想像力を刺激する物語。
そして、卓越したゲームデザインが素晴らしい。快適なジャンプと移動。適度な難度。強化していく楽しみ。ゲームオーバーになり、倒せないボス敵の攻略法を見つけ、撃破したときの上達の実感。物語がドライブしていく終盤。様々な隠し要素。その高揚感がたまらない。
それでは、開発室Pixel作品を紹介していきたい。
スマホゲームにおける模範的2Dアクション「ケロブラスター(Kero Blaster)」
ケロブラスターは2014年に配信された、快適極まりない操作性と、圧倒的に練られたゲームバランスに感服してしまう、極めて完成度の高い2D横スクロールアクションだ。
サラリーマンであるカエルが社畜となって、様々なステージに転送されるなかで、武器を手に入れたり巨大なボスと戦いながら、出張で訪れた未知の大地を冒険していく。
ファミコン風のポップなドット絵のキャラとBGM、謎の多い、想像力を刺激するストーリー。特に後半の怒涛のドラマティックな展開には胸を熱くせざるをえない。
武器を使い分けるスピード感があるシューティング要素には「ロックマン」的な爽快さがある。
ジャンプアクションはマリオのようだ。ジェットパックを使い、2段ジャンプが出来るようになってからの気持ちよさは別格だ。
そして、古典的な2Dアクションながら、作り込まれたゲームバランスとスマホゲームとは思えないほどの快適な操作性に驚くだろう。
オートで行われる攻撃。ジャンプボタンははしごの昇降ボタンも兼ねている。ショットの方向をスティックで指定する操作方法は、バーチャルパッドで操作する、ともすれば操作性が悪い多くのスマホ2Dゲームとは一線を隠すほどに快適だ。
そして、なんといっても、徹底したレベルデザインが秀逸だ。様々なステージは、武器の使い方を把握し強化するほどに楽勝になっていく。自分からは襲いかかってこない敵。仮想パッドで操作することがストレスにならないよう、あらゆる配慮がここではされている。
1つ1つの武器に個性と使い所が用意されており、コインを集め、ショップでパワーアップしたときの無双感はたまらない。苦戦したステージでザコ敵の群れを殲滅できる楽しみといったら無類である。
強力なボスの攻略法を、トライアンドエラーで倒す上達の喜び。二周目のプレイにおける「強くてニューゲーム」や「真のエンディング」。
どれも、極めてオーソドックスな2Dアクションの中に、丁寧に作り込まれたバランス調整がされており「プレイヤーの快感原則」にどこまでも忠実だ。初見ではクリアできない難度もやりごたえ十分だし、初心者の救済要素もきちんと用意されている。
アップロードされ『残業モード』というクリア後の要素も実装された。クリアしてアンインストールしたユーザーも、もはや別物とも言えるストーリーとステージ構成、別のボスキャラに驚きつつ再プレイして欲しい。
現在、iOSの他にSteam(PC)で遊べたが、2018年4月にPS4にも移植され、今夏、Nintendo Switchでも移植されるとのこと。楽しみだ。
#ケロブラスター は今年の夏、Nintendo Switchで発売予定です|#KeroBlaster will be released on Nintendo Switch in this summer. pic.twitter.com/pslkeEEsDw
— studiopixel.jp (@StudioPixelJP) 2018年6月1日
語り継がれる伝説的人気アクション「洞窟物語」
語り尽くされた感はあるが、開発室Pixelの作品を語る上で、どうしても「洞窟物語(Cave Story)」は避けられない話題だ。
2004年に発表された本作は、ご存知の通り、世界的な人気と知名度を誇り、フリーゲームの金字塔とまで呼ばれている。
2012年には『タイム』誌で「歴史上でもっとも偉大なゲーム100」のうちの1タイトルにも選ばれたインディーゲーム、それが「洞窟物語」だ。
上下左右に広がる広大なステージを探索する「メトロイド」のような楽しみ。多数の武器を使いこなすシューティング要素。成長していくRPGのような要素、ふわふわとした浮遊感のあるジャンプとスピード感のあるブースターの移動。ダークかつシリアスながら、燃えるストーリー。
美しく燃えるBGM。そして、数々の隠し要素と。凶悪なラストダンジョン「血塗られた聖域」を走破した果てにたどり着く真のエンディング。僕だって何周クリアしたかわからない。もう15年近くも昔の話なのに。
プログラムをはじめ、グラフィック、サウンド、ストーリーといったゲームを構成する要素全てが、Pixelこと天谷大輔氏1人によって作られていたのも驚きだった。
個人開発ながら、極めて高い完成度は、インディーゲームの代名詞のように扱われ、あたかも神格化されてるかのような評価と知名度を誇り、現在ではPCのみならず、WiiやPSP、3DSやNintendo Switchにもアレンジ・移植されている。
現在では難易度を3段階から選ねるほか、グラフィックやBGMをオリジナルとアレンジで変更できたり、ヒロイン側の視点からプレイできるモードも実装。
その他、ボスラッシュモード、オリジナル版では収録されていなかった「風の砦」ステージといった多数の追加要素が収録されている。PC版で楽しんだユーザーも再プレイをおすすめしたい。
バック・トゥ・ザ・ベーシック〜洞窟物語と比較されすぎた「ケロブラスター」
多くのユーザーが「ケロブラスター」に「洞窟物語」を求めすぎてしまったと思う。自分も含め。まるで、昔の恋人を思い出すかのように。
洞窟を舞台にした大冒険から、社畜サラリーマンの仕事…ステージの少なさを、ボリュームダウンと捉えるユーザーもいたかもしれない(現在、アップデートでハードモードが追加され、ボリューム不足ではないことを強調しておく)。
今、「洞窟物語」と「ケロブラスター」を再プレイしてみると、洞窟物語は長編の大作であり、自由に視点を動かし縦横無尽に移動するステージ構成は「PCフリーゲームとしての最適解」だったように思える。そして今思うとあれが無料で遊べるというのは、奇跡というか、ありえない話だったと思う。
対して「ケロブラスター」はスマホで遊ぶ適したステージのボリュームであり、2Dアクションにおける仮想パッドでのストレスに真っ向から対峙しているように思えた。探索型ではなくステージクリア型にしたのも、移動時のプレイで中断しやすいよう配慮しているからだろう。
ファミコン風のグラフィックも、小さいディスプレイでプレイする上で、色数が少ないほうが映えるからなのではないだろうか(反して洞窟物語はスーファミ風のドットだ)。
上下左右にしか移動しないステージ構成も、仮想パッドで斜め入力が難しいからだろうし、下にショットを発射できない仕様も誤操作を防ぐためだと思われる。
逆に「洞窟物語」をそのままスマホゲームに移植したとしたら、原作の面白さは何かしら損なわれてしまうだろう。
スマホ用に調整された、妥協ないバランスと操作性が凄い。ユーザー目線の優しさがそこにあるし、各キャラのセリフの節々にも感じる。かわいい。
「ケロブラスター」は、まるで初代「スーパーマリオブラザーズ」のような、古典的な2Dアクションの面白さを、スマホに持ち込んだ2Dアクションだ。
個人的には任天堂「スーパーマリオラン」ですらなし得てない快挙だと思っている。
開発室Pixelの次回作を、また10年待とうじゃないか
優れた(面白い)ゲームには、優れたゲームデザインが存在する。それこそ「スーパーマリオブラザーズ」ゲーム冒頭とかはどうだろう。
クリボーをかわし、倒すジャンプの必要性をプレイヤーに発見させ、ハテナブロックを叩くとキノコが出てくる、土管に入るとボーナスステージが、と操作方法やゲーム性を序盤で説明臭くなくプレイヤーに自然に提示する。その手腕は見事でしかない。
本作も同様だ。ゲーム開始時、電話をとるまでに攻撃、ジャンプ、はしご昇降をチュートリアルさせる手腕が見事だ。
プレイヤーが何をするかがわかってくる序盤、挫折や困難の中に成長を感じさせる中盤、燃える後半、終わるのが寂しいラスト…。ゲームして心が躍動するツボをこれでもかと押さえている。
現在、開発室Pixelの作品は、ケロブラスターのお試し版とも言える「PINK HOUR」とその続編「ピンクヘブン」、「あざらし」をiOSでプレイ可能だ。
「生きている限り何か作りたいです」開発室Pixelの代表、天谷大輔さんはそうインタビューで応えていた。音楽やキャラの造形、プログラムやステージ配置の一つ一つには、ユーザー目線でわかりやすさを追求していた。そしてデバッガー達や仲間の存在も強調していた。小気味いい人物像がそこにあった。
僕はまた開発室Pixelの次回作を待ちたい。10年以上、世界に愛された「洞窟物語」の先にあるものを。なんなら完全に別ゲーだっていいと思う。10年後だっていい。