ライター高野京介がインディーデベロッパーを紹介するシリーズ。
今回は僕がスマホ史上に残る名作だと断言するゲーム「ヒュプノノーツ」を輩出した石乃浦骨董店(ishinoura.com)を紹介したい。
なるべくネタバレなしで…。
目次
泣きながら一気にクリアした、心に刺さるRPG「ヒュプノノーツ1」
夢の世界を旅する、感傷的な一次元ローグライクRPG、それがヒュプノノーツだ。
プレイヤーは夢の世界を、制限時間がある中、一本道を進み、時には戻りながら、ランダムイベントをこなしながら進んでいく。死ぬとその章の最初からレベル1で戻される。
手書き風のグラフィック、大人になることの痛みや喪失を描いたシナリオがノベルゲームのように展開される、プレイヤーは随所で選択を迫られ、エンディングは分岐する。
自作のBGMもメロディアスで、手打ち風midiのような音色がノスタルジーに強く訴えかける。
例えば、第一章の舞台は少年時代。幼少期はニンジンやピーマンといった、嫌いな食べ物とコマンドバトル形式で戦う。おもちゃのロボットや飼い猫が仲間になって戦闘に参加していく。
ドッチボールで狙われたり、親にゲームを隠されたり、レベルが上がると敵の内容は英語の授業や不良になったりしながら、少年は大人へと成長していく。人生そのものをRPGに落とし込んでいる手腕が見事だ。
そして二章以降ではノスタルジーに留まらない急展開を告げる。物語は陰鬱かつ深く、思春期のヒロインの精神世界にフォーカスしていく。
暗い展開では、ゲーム内でも貧弱になる。例えば「甘えたい気持ち」というアイテムは、実際はステータスを下げるトラップだ(捨てることでステータスが回復する)。
ストーリーの明暗やヒロインの精神状況とゲームシステム、ストーリーが完全に絡み合っていく。
仲間になっても、何もしてくれない友達もいる。彼氏は、ステータスは上がるが金がかかる。だから捨てて(別れて)攻略する事もできる(RPGとしては「彼氏」がアイテム扱いなのが面白い)。重いテーマ性でありつつもユニークさも目立つ。
独創的なゲームシステムと絵柄が魅力だ。そして、もちろん最大の魅力はストーリーにある。大人だからこそわかってしまう、世界の残酷さ。挫折や諦めをきちんと描く。
セリフも一つ一つが生々しい。キャラクターの言葉は肉体性を帯びて現実的だ(そこはかとないオタク調な雰囲気も懐かしい)。
そして、だからこそ、ノスタルジーを捨て、苦しみもがいて生きて、大人になってしまったことを肯定しようとするラストバトルはどこまでも熱い。
少し残念なのは、戦闘の難易度は高い点だろうか。アイテムやイベントの発生にはランダム性が高く、運も絡む。何度もゲームオーバーになり、最初からスタートとなって挫折しかけるかもしれない。
RPGの不得意なユーザーには若干敷居が高いだろう。特に最終章は課金が前提なほどに難しい。だからこそ手探りで攻略法を見つけ、ステージを走破したときの感動は大きい。
ときには負けたり後退して、成長を繰り返して進んでいく。楽勝や無双なんて程遠い困難の闇の中に、ひとすじの光を見出す。それが人生であり、RPGなのだろう。
心に深く傷と感動を残す。スマホRPGの歴史に残したい金字塔的な一作だ。
いまこそ再評価したい、スケールアップした意欲作の続編「ヒュプノノーツ2」
夢の世界だけじゃなく、現実をも舞台にした、スケールの大きい物語が展開される「ヒュプノノーツ2」だ。
前作と同様、夢の世界では現実の困難がRPGの敵として現れ、プレイヤーは戦闘して克服していく、という流れを踏襲している。時には友人や恋人が敵として立ちふさがることもある。
やはり今回も敵キャラやアイテムが現実的でユニークだ。女子大生であるヒロインは、冒頭、女子大生として、月曜1限や駅ビルのアパレル店員といった憂鬱がRPGで言う敵になる。戦い、精神の疲労でダメージを負っていく。
アイテムや必殺技が「作業用BGM」だったり「引用RT」だったりするし、Twitterのアカウントが襲いかかってくることもあり、インターネットと対峙することも要求されていく。
最大の追加要素は「現実世界の要素が大幅に追加」されたことだろうか。
自室のパソコンでアイテムを購入したり、料理したり、アルバイトをしたり。それが夢の世界での冒険のステータスにも反映されていく。
より生々しく、主人公や登場人物の葛藤やトラウマといった暗黒に踏み込んでいる印象をうけた。
だが、それは文字通り、序章でしかなかった。前作「ヒュプノノーツ1」がまるで序章でしかなかったような壮大なシナリオが繰り広げられる。
前作から4年後の世界であり、もちろん前作の登場人物も重要な立ち位置を持って登場する。前作の謎も回収されていく。そして、シナリオのスケールは更に広がり、現実世界を舞台にした大きな陰謀に巻き込まれていく。
僕がこの記事を書いてて強く強く主張したいことがある。それは
「ヒュプノノーツ2」を「1」への愛ゆへに酷評したユーザーに、再度プレイして欲しい
ということだ。
実は、高野は数年前、作者である並河さんにインタビューをした。確かに、前作とは音楽を除いてスタッフが交代しており、1とは違ったテイストのゲームになっている。
正直、自分だって、絵柄やインターフェイスの変更に戸惑いはあった。リリース当初は、現実パートでステータスを底上げできる事に説明もなく、手探りで進めていく「ローグ感」を大切にしているのかと思った。
それでも若干ユーザーを置いてきぼりにしている不親切なところもあり、インターネット上でも「1」ほどの絶賛はなかった。
当初未完成だった5章が、すべての伏線を回収するカタルシスを担っていたのもあるだろうが、自分は今「ヒュプノノーツ2」の評価は妥当ではないと思っている。僕はこのゲームをレビューした3年前、僕はこう書いた。
ほぼ夢だけを冒険していた前作と、「夢と現実がクロスする様は「クロノ・トリガー」に対する「クロノ・クロス」のようだ」
ただの印象論だったが、今にして思うとそして「ヒュプノノーツ2」の置かれた状況も「クロノ・クロス」のようだと感じてしまう。名作と呼ばれた前作の絶賛は、ある意味では「呪い」のようなものだ。
別ベクトルを目指した複雑なシナリオ、グッドエンディングへの到達への困難さ、原作らしさをユーザーに要求されてしまう事、重厚な内容だからゆえの敷居の高さ…。様々な要素に、本作との奇妙な相似を感じてしまう。
田舎の一高校生の主観では、1999年当時「トリガー」の続編と謳われた「クロス」が、インターネットの普及した現在のように高い評価を下されていたとは思わなかった。
「ヒュプノノーツ2」の毛色が変わったことは否定しない。だが、ゲームの持つテーマ性、登場人物の精神世界を深く掘り下げた描写、前作の謎を回収するシナリオとテキスト(特に後編!)を知らないまま終わったユーザーいるなら、それはあまりにも、もったいなさすぎる。
前作を愛したユーザーだからこそ、ゲーマー達は高いハードルを課してしまう。だがそれは作者も同じだ。僕は作品から、製作者の全力のもがきを強く感じる。だからこそ、物語の悲しみは深く、そして輝いている。そう思うのだ。
#ヒュプノノーツ15 #非公式情報
ヒュプノノーツ2を作る時、上から「ヒュプノノーツシリーズに引導を渡してくれても構わない」と言われました。
まあ売れなくてもいいから好きなようにやってみろ、という意味合いかと思うのですが、今は作者でさえ作品を殺すことはできないなと思っています。— 石乃浦骨董店公式 (@ishinoura) 2017年6月6日
今、再び「ヒュプノノーツ2」をプレイしてみて欲しい。バージョン1.5では最終章が追加された。前作と同様、難易度は高い。だが、今なら情報だって揃っている。なんなら僕が提供したっていい。
名作の続編ゆえに、詰め込まれた新基軸を、味わってほしい。操作方法は1時間すれば慣れる。
石乃浦骨董店の魅力、悲しみを帯びたテキストとユニークなノリ
石乃浦骨董店はヒュプノノーツの他にも新作をリリースしている。
文明崩壊後の世界を舞台に、重厚なストーリーとグラフィックが展開されるマッチ3パズル「ロスカム」。かわいらしい猫の挙動とアクションがリンクした「もちきな」。
どちらも3Dグラフィックを使ったカジュアルなゲームの中に、ストーリーを散りばめる作品だ。そのどれも共通するのがテキストの魅力だろう。捨てられた猫や崩壊した世界といったダークな物語の中でもいきいきとした言葉が散りばめられている。
だが、やはり彼らの魅力は大作でこそ光る。僕ら、ゲーマーはワガママだ。あんな感動にもう一度触れてみたい。時に熱く、メロディアスなBGMと、人間臭いテキストや物語とゲーム内容がマッチした大作を待ち望んでしまっている。まったく業が深い。
しかし!なんと石乃浦骨董店のTwitter(いつも考察に満ちていて面白い)には、ヒュプノノーツ1.5の企画を書いたという言及がある。
ヒュプノノーツ1.5の企画を書き始めました。
(非公式情報)— 石乃浦骨董店公式 (@ishinoura) 2017年5月30日
また #非公式情報 だけど#ヒュプノノーツ1.5 はヒュプノ1かそれよりノベルゲーム寄りになると思う。つまりRPGを自称するか迷うレベル。
理由はプレイヤーの演技を許せるほどストーリーの幅を広げてしまうとボリュームが増えすぎて制作期間と予算的に作れないと思うから。— 石乃浦骨董店公式 (@ishinoura) 2017年6月10日
僕は待ちたい。別にRPGでなくてもいい。「ヒュプノノーツ」という名を冠していなくたっていい。だがあの心の傷に寄り添うような、石乃浦骨董店の言葉と魂にもう一度触れたい。