数千数万とリリースされるスマホゲーの中で、とりわけセンスの光るゲームを紹介するこのコーナー。
今回は個人開発ゲーの中でも、随一の世界観が話題の、「合同会社ズィーマ」さんの作品群を紹介したい。
目次
遠い未来、崩壊した世界。合同会社ズィーマのゲームの魅力
ズィーマさんの諸作品は、文明が崩壊した世界を舞台にした、いわゆる「ポストアポカリプス」もののSF作品が多い。
ロボットや突然変異したミュータント、半魚人などといったキャラクターが登場。生き残ったわずかな人類の生活が語られる。
その作品たちに共通する魅力として、妙に人間臭いキャラクター達、味のあるセリフ、手描きイラスト風のドット絵、簡単操作で手軽に出来るゲーム性が上げられる。
手塚治虫の漫画でいう「スターシステム」のように、各キャラクターが他の作品でも登場することが多く、複数のゲームを遊ぶことで魅力も倍増する。
そして、文明崩壊後の世界ならではの、衝撃的な展開もまた、ズィーマさんの作品の魅力の一つだ。
長期間食料を送らなかったり、人間として外道な選択をしてしまうと、絶望的な展開になってしまうことも多い。ドット絵と和気あいあいとしたキャラクターが唐突に残酷な選択をしてしまう、落差の激しいストーリーテリングにまんまと魅せられてしまうのだ。
それではその作品を紹介していきたい。
未来に生きる子孫へ「仕送り」をして救い出すタイムトラベルアドベンチャー「TimeMachine」
『TimeMachine』は、突然自室にタイムマシンが現れた事がキッカケで西暦約4000年の地球とモニタ越しに交信するSFアドベンチャー。
遠い未来で人類最後の生存者となった子孫に、現代の物資を仕送りして生き残りの手伝いをしていく。
既に文明が滅び、汚染された未来。凶悪なミュータントが蔓延り、まともな食料も無く、話し相手はプレイヤーだけ。
1時間毎に溜まるエネルギーを消費して転送する放置ゲーム形式。食べ物、生活用品、娯楽品、水道水ですら凄く感謝される。ゴミを送っても、悲惨な環境にいる未来人ならではのオーバーなリアクションを魅せてくれる。
そして交流する内に明らかになる、壮絶な未来。そしてプレイヤーの選択によって衝撃的な9種のエンディングに分岐していく。
ポストアポカリプスシリーズ第一作。
彼女が、脳ミソだけになっても、その想いを貫けるか。極限の愛を描く物語「MyLove.」(マイラブ)
『MyLove.(マイラブ)』は、史上初?となる“脳みそ”がヒロインのSF恋愛アドベンチャー。
遠い未来、荒廃した世界。暗い研究所で二人、身体を失い、脳みそだけになった妻と過ごす日々。
科学者であるプレイヤーは“生体素材”と“機械の部品”を集め、足→腕→胴体→頭と人体を再生させていくのだが…。
培養液に浸かった脳ミソという悲惨な状況にも関わらず、彼女は饒舌に語り続けてくる。秘め事が増える度に、遊び手自身も必ず再生させたいと惹き込まれていくが、その為には“選択”をしなければならない。
罪に塗れた生身の肉体か、人らしからぬ機械の身体か。生身の肉体を再生するには数百人の「人間」を殺処分しなければならない。
「決して殺さないで」と言われるが、疑われても嘘を通し、肉体の用意することも選べる。一方言いつけを守ってガラクタを使えば、今度は人間としての機能を損なう別の問題が発生する。
何が正しく、どれが彼女と自分にとって一番良い結果なのか。選ぶから生じる葛藤もゲームらしい大きな魅力だ。
また、放置ゲームではなく、アクション要素のあるバトルも実装したことも話題に。ゲームとしての面白さも追加され、Twitterなどでもズィーマさん人気が広がった一作となった。
地球最後のパン屋を経営する最新作。終わる世界の優しい物語「ポストアポカリプスベーカリー」
ズィーマさんの最新作である「ポストアポカリプスベーカリー」は、「地球最後のパン屋」を経営するSFアドベンチャー。
文明の崩壊した世界を舞台に、エキセントリックな客たちとパン屋が織りなすハートウォーミングな物語だ。
超能力者、サイボーグ、試験管に入った脳みそ(!?)や半魚人など、終末世界にふさわしい多彩なお客さんにパンを振る舞っていく。
荒廃した世界で、彼らの要望は尽きないが、プレイヤーはパンの美味しさや香り、腹もちをパワーアップさせることで彼らの悩みを解決していく。
「マッドマックス」「北斗の拳」のような、夢も希望もない世界なのに、殺伐した状況に生きるキャラ達は優しい。ズィーマ節とも言えるセリフの妙味はさらに研ぎ澄まされている。キャラデザもポップで愛くるしい。
また、今作はゲームオーバーの概念もなく、他作品よりもプレイヤーは簡単操作で客とのコミュニケーションをのんびりと楽しめる「優しい」作風。でも、それは、もうすぐ終わってしまう、崩壊後の世界のお話なのだ。
最新作だからか頻繁にアップデートも行われている。ボリュームのある作品だ。
世界の果てで愛と殺戮を夢見るロボットの物語「DropPoint(ドロップポイント)」
「DropPoint(ドロップポイント)」は人類崩壊後の未来、ロボットとエンジニアの触れ合いと荒廃した戦いを描いたSFアドベンチャー。
プレイヤーは空中要塞に生き残ったただひとりのエンジニアとして、相棒のロボットと人類の解放を目指す。
ロボットを修理し、武器を装備し、そしてお弁当を持たせて戦場【DropPoint】へと送り出す…。
前作「Timemachine」でも猛威を奮った、プレイヤーの行動でロボットの思考や結末が変化していくマルチエンディングシステムは今回も健在。
食べたものへの反応や「汚物は消毒だー!」など、ネタ会話の数々も面白い。
ロボットはお弁当を食べることにより人間性を獲得するが、戦い抜いていくためには残虐な武器を手にしていかないといけない。このジレンマによって分岐するマルチエンディングが本作の特徴だが、最大の魅力はロボットの会話一つ一つの人間臭さにあるだろう。
新しいお弁当を食べたとき、お弁当を持たせてくれなかったとき…モンスターを倒す時、プレイヤーに質問するとき。
どれもロボットに重要な変化をもたらし、それによってエンディングは分岐していく。
放置系のアドベンチャーの中で随一の演出のよさと独自性のあるストーリーだと断言したい。
スマホインディーゲームにはかつてのPS1のような豊穣なクリエイティヴィティがある(のかもしれない)
年間数千のアプリを遊び、レビューを書くものとして、これは光るセンスだ!と思えた時の幸運といったら。
美麗でも豪華じゃなくても、クソゲーでもバカゲーでもいい、唯一無二そんなインディーゲームならではの尖った感性に出会えたときは幸福だ。
アドレナリンが分泌し、時間を忘れてプレイしまう。課金まったなし…作者に尊敬を込めて「ありがとう」と言いたくなるようなあの気持ち。
そんな経験、あるだろうか? 僕には幸いながら、もう30半ばにして、まだまだある。そんなゲームを紹介できた時、大切なことはすべてゲームから教えてもらった、そんな自分が、ゲーム業界に、わずかながらでも恩返しできたんじゃないか、と独りよがりがちに思うのだ。
ズィーマさん、次回作にもガンガン期待しています!