東京ゲームショウのビジネスデイ2日目には、「新しいゲームのカタチとは? ネットワーク時代のゲームビジネス新事情」と題されたセッションが行われた。
本セッションでは、ネットワークの発達により、多様化したプラットフォームにおける新しいビジネスのあり方について議論された。
登壇者は著名なクリエイター3名と豪華な顔ぶれだ。
『AZEL~パンツァードラグーンRPG』、『ソニックアドベンチャー』を手がけ、現在『ファンタシースターオンライン2』を手がけているセガの酒井智史氏。
大ヒットスマートフォンゲーム『パズル&ドラゴンズ』(パズドラ)のプロデューサーとして話題の的であるガンホーの山本大介氏。
『アクアノートの休日』、『太陽のしっぽ』、『巨人のドシン』といった個性的な作品を手がけ、現在はLINE Gameで配信予定の『イージーダイバー』を開発しているグラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏氏。
司会は日経BP社の瀬川明秀氏が進めた。3名のクリエイターの発表は、新しい課金システムのあり方に触れながらも、ゲームの面白さにこだわるゲームクリエイターのプライドを感じさせるものであった。
目次
マルチプラットフォームで展開するセガの新作MMORPG『ファンタシースターオンライン2』
発表はまず、セガの酒井氏からから始まった。『ファンタシースターオンライン』(以下PSO)は2000年にドリームキャスト向けにリリースされた日本でもっとも古いオンラインRPGの一つ。酒井氏はPSOシリーズの長い歴史を紹介しながら、シリーズ最新作の『PSO2』について説明しました。
シリーズ最新作『PSO2』は、現在はPC向けのオンラインRPGですが、今後PSVitaとスマートフォンに対応する予定の野心的なタイトルだ。既存のオンラインゲーマーだけではなく、幅広いユーザーにリーチすることが期待されている。
『PSO2』は、基本プレイ無料のオンラインゲームであるため、収益は基本的にはアイテム課金にたよっている。
PSOシリーズのゲームとしての魅力を伝えるために、課金アイテムは「システム系」、「時間短縮系」、「消費系」といった利便性を高めるものや、「キャラクター系」のコスチュームに限られており、無課金のユーザーでも十分に楽しめるゲームになっている。
今年の7月4日に正式サービスが開始され、現在のユーザー数は90万IDを突破した。2012年の冬にはスマートフォンに対応しているため、スマートフォンユーザーとしては非常に楽しみな大作だ。さらに2013年の春にPSVitaのサービスを予定。
ユーザーに優しい「ポカポカ運営」を目指すガンホーの『パズル&ドラゴンズ』
次はガンホーの山本大介氏の発表だ。「北風と太陽-ポカポカ運営」というタイトルで、先日Android版もリリースされた大ヒットスマートフォンゲーム『パズル&ドラゴンズ』(以下『パズドラ』)の運営方針を報告した。
ゲームの運営をイソップ童話の「北風と太陽」にたとえた山本氏。ソーシャルゲームなどの多くの運営がユーザーに無理な課金を押し付けていないかと問い直した。対照的に、『パズドラ』ではユーザーに優しい「ポカポカ運営」を行なっていることを説明していく。
山本氏が掲げるポカポカ運営は以下の大きく6つの特徴がある。
- 無課金でもずっと楽しめるようにゲームデザイン&運営をする。
- アイテムで釣ったインバイトはしない。Twitterなどで定型文をつぶやかない。
- ユーザーとの間に身近な存在を作り、正直に最新情報を伝える。
- 攻略記事などにアプリ内リンクを設置し、アプリ⇔情報媒体をつなぐ。
- 運営は24時間ライブ。
- KPIはARPPUを一定以下に抑えるための指針にする。
ポカポカ運営の1番目の特徴は、クエストなどゲームの根幹に関わる部分に課金を行なうず、ゲーム自体は無料でずっと楽しめるようにするというもの。たとえ無料ユーザーであっても、いつか課金してくれるチャンスがあるため、有料ユーザーも無料ユーザーもどちらもお客様と考えることが強調された。
2番目の特徴は、最近、増えている外部のSNSと連動する形のキャンペーンに関するもの。特にTwitterなどで宣伝のための定型文をポストさせるキャンペーンがあるが、そのようなキャンペーンは、友人関係を犠牲にするため、『パズドラ』の運営では行なっていないという。
3番目の特徴は、具体的には公式Twitterアカウント(id:pad_sexy)を用意し、ユーザーとの交流をはかるというもの。クレームなどで叩かれることも多いが、ユーザーからの要望をいち早くつかむことで運営の助けになるという。さらに、SNSでユーザーが積極的に発言しやすい環境を築くことを重視しているそうだ。
4番目の特徴は、攻略情報をゲーム自体に入れることはできないため、ゲーム外のメディアとの連動を重視するというものだ。『パズドラ』では、あえてゲーム内でのコミュニケーションを取りにくくすることで、外部のサービスでコミュニティが形成されることを狙っているという。
5番目の特徴は、オンラインゲームは24時間365日、万全なサポート体制を整備するのが重要であるという指摘だ。アーティストがライブで喉の調子が悪いときは、当然のようにお詫びをするように、サーバ障害などには迅速な対応を行なう必要性がある。
『パズドラ』では、サーバトラブルのたびに、課金アイテムである「魔法石」を配っているため、現在では魔法石のためにサーバトラブルを歓迎するユーザーさえ存在のしているという。
6番目の特徴は、ソーシャルゲーム業界の常識と真っ向対立するため、驚くべき内容だ。アプリ★ゲットのインタビューでも山本氏が応えていたように、『パズドラ』の運営はARPU(一人あたりの売上高)を一定に抑える努力を行なっているという。具体的には、パッケージソフトが一本買えるくらいの5000円から10000円あたりを目標に設定しているそうだ。
(参考インタビュー:https://appget.com/c/news/8691/pazdra/)
こらら6つの特徴に示されるポカポカ運営を行なうことで、『パズドラ』のユーザーの継続率は月をまたいで8割という高い水準を保っている。山本氏は、この方針がソーシャルゲームの常識と大きく異ることを理解したうえで、長期的に見るとこのやり方でも上手くいくと強調した。
ゲームとは何か?遊びとは何か?グラスホッパーの新作『イージーダイバー』で魅せるクリエイター魂
三人目はグラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏氏。『アクアノートの休日』、『太陽のしっぽ』、『巨人のドシン』といった個性的な作品を手がけてきた飯田氏だけにあって、「22世紀のための準備運動」と題された発表は哲学的な内容。
「ゲームビジネスセッション」という枠組みにとらわれないゲームクリエイターらしい報告で、創作行為の楽しみと苦しみが相混じった印象的なものであった。
まず飯田氏は、いきなりゴーギャンの有名な絵画「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」をスライドに移し、「ゲームはいったい何の役に立つのか?」と哲学的な問いを投げかけた。
飯田氏自身は子どものころに出会ったスペースインベーダーに影響されクリエイターを志し、今は22世紀の子どもに影響を与えるような野心的ゲームを作っていきたいと述べた。
そして現在のコンソールゲーム市場が低迷する一方で、スマートフォンなどにはまだまだ新しい試みが可能であり、ゲーム産業はこれからも滅ぶことはないと語った。
そんな飯田氏が現在、開発しているゲームは『イージーダイバー』というスマートフォン向けのものだ。飯田氏の原点となる『アクアノートの休日』のオンライン版が作れないかと模索している中、できるだけ多くのユーザーに遊んでもらいたいと思い、スマートフォン向けに開発を行なってきたそうだ。
2012年の夏にいったん完成したが、NHNのSNSアプリ「LINE」と連携したゲームとしてリリースすることが急遽決定したため、現在、開発を白紙にもどして作り直しているそうだ。
爆発的にユーザー数を増やしているLINE GAMEでリリースできるのはうれしいことだが、自らの作家性が薄くなることには、複雑な心境があると言う。それでも、オンライン上でマルチプレイが可能、タッチデバイスに特化したUIなどスマートフォンらしい作品になる予定で非常に期待が持てる作品だ。
(LINE GAMEについてはこちらのインタビューを参考:https://appget.com/c/news/6979/linegame/)
最後に飯田氏はレコード盤をスライドに映しながら、メディアの変化とともに「かわるもの、かわらないもの」を説明した。そして、ビジネスやメディア、ハードウェアが変化しても、「遊び」そのものは変化しないと強調した。
飯田氏は「遊びとは何か?」という問題に対して、「現在は役に立たないが、遠い未来には役に立つかもしれないもの」という応えを提案する。
『アクアノートの休日』や『イージーダイバー』は、海底での謎の生物とのコミュニケーションを行なうというゲームであるが、それらは明らかに現在は役に立たない「遊び」でしかない。
しかしながら、そのようなコミュニケーション欲求は未来の誰かとのコミュニケーションに役に立つかもしれない重要な「遊び」であると、飯田氏は自身の考えを述べた。
飯田氏の発表は「ゲームビジネスセッション」という内容から大きく離れたものであったが、「正々堂々と役に立たないこと」を積極的にやっていくのが自身の使命であると語る姿は、現在のゲーム業界においては印象的なものに映った。
結局は面白いゲームが生き残る!
3人のクリエイターによる発表が終了した後のトークセッションでは、ビジネスの話題よりもクリエイター魂を魅せつけるものとなった。司会の瀬川氏は、ゲームの企画のための資金集めのために、どのように人々を説得しているのかを質問した。
セガの酒井氏やガンホーの山本氏は、短期的な利益よりも、長期的な利益を重視すると述べた。
他方、グラスホッパーの飯田氏は、「正直、ビジネス的にはわからないが、100年待ってろ!」と大胆な発言を行ない、大いに会場をわかせた。さらに、飯田氏は絵画などの芸術が何百年も生き残っているように、ゲームは文化として今後も残り付けるだろうと、熱弁した。
「ゲームビジネスセッション」と題されたフォーラムであったが、結果として浮かび上がったのは「結局は面白いゲームが生き残る」というクリエイターの姿勢であった。
ソーシャルゲームの成功以降、ビジネスの話題が中心となるゲーム業界の中、クリエイター本来のあり方に気付かされる情熱的なセッションであったといえる。