「一石を投じて新しいルールを作っていきたい」株式会社SHIFT 左近充 勇人さん インタビュー

最終更新:

執筆者:佐藤亘

株式会社SHIFT左近充さんインタビュー

今回は前回の渡邊さんに引き続き、テストの現場について「株式会社SHIFT」のグループ長補佐を務める左近充さんにインタビュー!

ただデバッグするだけじゃない、魅力的品質という考え方と、みんなの経験をナレッジ化し日々改善していくというしくみについて語っていただきました。

※本インタビューは2020年1月にコロナ流行以前に行われたものです。記事内の写真もコロナ流行以前に撮影されており、現在は感染防止対策を施しております。

左近充さん

株式会社SHIFT
ビジネストランスフォーメーション事業本部/エンターテインメント統括部/上流支援グループ
グループ長補佐 左近充 勇人さん(さこんじゅう はやと)

ゲーム開発に15年携わる中で、品質を担保するという課題の重要性を痛感。
品質を保証する仕組みのサービス化のため、SHIFTでグループ長補佐として日々業務の改善に取り組んでいる。
株式会社SHIFTはソフトウェアテストからプロジェクト運営、コンサルティングなど、ソフトウェアの「品質」を軸としたお客様のソフトウェア開発プロジェクトにおいて、自社のノウハウやナレッジを最大限に活用したサービスを展開している。

HP:株式会社SHIFT

作る面白さよりも品質を

SHIFTインタビュー

アプリゲット
本日はお時間いただきありがとうございます。
前回渡邊さんにテストの現場についてお聞きしたんですが、今回はSHIFTという会社の取り組みや考え方についてお聞きしたいと思っています。
それではお名前と現在携わっている業務について簡単に紹介をお願いします。
左近充
エンターテインメント統括部 上流支援グループの左近充です。
現在はグループ長補佐という役職に就いています。
SHIFTに入る前にゲーム開発会社でプランナーやディレクター、プロジェクトマネージャーを15年ほどやっておりました。
アプリゲット
かなり長くゲーム制作に携わってたんですね。
なぜ今のデバッグ業界に移られたんでしょうか?
左近充
前職では企画段階から運用まで一気通貫してプロジェクトマネージメントをしていたんですが、ゲーム開発を進める中で炎上するプロジェクトを数多く見てきました。
その中で、テスト段階での炎上現場を少なからず経験してきました。
そういう失敗を見ていくうちに、我々の運用やテストのやり方が正しいのだろうか、という疑問がありました。
一方で成功するパターンもありました。
では、そういう成功事例をまとめて、テストに対するアプローチの仕方や、サービスを仕組み化できるんじゃないかと個人的に考えていたときに、偶然出会ったのがSHIFTでした。
そしてSHIFTは自分の中で描いていたものをすでに実現していたんです。
アプリゲット
ゲーム開発をするうちに制作よりもテストへの興味が強くなったということしょうか?
左近充
そうですね。
もともとプランナーやプロジェクトマネージャーとして、ゲームの面白さというものを常に考える立場にいたんですが、それと同時に全プロジェクトにおいて品質を担保するということが重要でした。
ゲームを作る面白さはある程度わかったので、自分の課題として、品質やビジネス面をいかに追求していくか、を考えるようになっていきました。
アプリゲット
左近充さんのように品質の課題に強い興味を持つ方は珍しいのでしょうか?
左近充
ゲームクリエイターやプランナーは、やっぱりもともと面白いゲームを作りたいという思いが強いので、品質を上げたいという視点に立つ人は少ないと思います。
ただ、開発していく中で、品質の担保というのはすごく重要で、そこをテーマに考える方は結構いると思います。
アプリゲット
左近充さんもゲーム会社に入られたときは面白いゲームを作ろうという気持ちで入られたんですよね?
左近充
そうですね。
やっぱりプランナーとしての最初のスタートはそこだと思います。
世の中に自分が作った面白いゲームを送り出したい。
プランナーはきっと誰しもそれが夢かなと思います。

どういう風に作るか楽しんでいたというか苦しんでいた

アプリゲット
ゲーム業界に入ろうと思ったきっかけのゲームとかあったりしますか?
このゲームに感動してとかあれば聞いてみたいんですが。
左近充
ベタ中のベタなんですけども、ちっちゃい頃に親がファミコンを買ってきて、それを見て自分で一番感動したのはドラゴンクエストですね。
RPGというものに初めて出会って、こういうゲームが作りたいなと。
ゲームの進化はやっぱりハードウェアの進化が面白いですね。
ファミコンからスーパーファミコン、そしてプレイステーションで3Dが出てきてどんどんリッチ化して。
今だと実写と変わらないくらい綺麗になりましたし、表現が広がっていく中で、一体何が出来るのかと考えることが楽しかったですし、目的でした。
実際には、表現の可能性が上がってゆく中で、いかにして面白いゲームを作るかをプランナーとして考えることを、楽しむ一方で、苦しんでもいたんですけどねw
アプリゲット
作るのって楽しいだけじゃないですもんねw
ちなみに左近充さんがゲーム業界に入った時のゲームハードって何の時代だったんですか?
左近充
プレイステーション2で、ちょうどプレステ1から変わるくらいだったと思います。
私が元々いた部署はコンシューマー向け以外にも携帯ゲームもやっていて、ガラケーのアプリで遊んでた頃で、そっちを作ってましたね。
それが進化してスマホが出て、ソーシャルゲームが流行りだす頃までずっとプランナーとしてやってきました。
アプリゲット
色々と幅広くゲームを見てきたんですね。
その中でテストに関する興味が湧いてきたと。
左近充
そうですね。
昔は開発からデバッグまで自分で完遂していましたが、大型タイトルが増えていく中で品質を担保するには、ちゃんと仕組み化して体制をしっかり整えた上でテストをしていかないと、プロジェクトとして成り立たなくなってしまうんです。

「標準化」という考え方

SHIFTインタビュー

アプリゲット
次はSHIFTについてお聞きしたいんですけども。
左近充
SHIFTについてですが、最初実はテスト業務ではなくコンサル業務からスタートしているんです。
なので私としてもテストして不具合を無くすだけではなく、品質を管理・改善することを大切に考えています。
私たちの部署はスマホアプリとかコンシューマー向けゲームを主に任せていただいていますが、それ以外にもPCゲームですとかVRもあります。
その結果、230社、650タイトルを超える実績がございます。
アプリゲット
相当な数ですね!
左近充
極端に言えばテレビについてるゲームですとか、ゲームというものであれば何でもお任せいただいております。
お客様ごとにゲームに対する課題は色々あるので、それに対して品質面でどういったアプローチをしてサポートしていくかを考えていきます。
例えば、不具合の有無だけではなく、ゲームバランスの良し悪しや、世界観的にマッチしているかどうか、そして仕様が正しくてもユーザーに刺さるものになっているかどうかまで見ています。
品質というものを広義にとらえ、それをどう上げるかを考えて提案をすることが主な仕事です。
アプリゲット
そこまでやるんですか!
それは自分もレビューチェックしてて思うんですけど、知識とか経験がないと難しいですよね。
左近充
私達は数多くのゲームに関するテストに携わらせていただいておりますので、その経験を出来るだけ知識として残すようにしています。
単純なテスト部分に加え、不具合が出やすいパターンや、それ以外にもIP施策のチェックポイントまでナレッジ化するようにしています。
もちろんそのIPに強いテストエンジニアさんをアサインするようにもします。
お任せいただいたゲームタイトルに愛を持って接するというのも重要だと考えています。
アプリゲット
ナレッジ化を徹底してますね。
正直SHIFTっていう会社さんのそういう考え方がすごい特殊だなと思います。
結構経験則でやるっていう会社が多いと思うですけど、そこを仕組み化しようとしてるっていうのは進んだ考え方ですね。
左近充
SHIFTは「標準化」することをすごく大事にしています。
属人的にならないために、過去の不具合や実績から、誰でも同じレベルでテストができるような「テストケース」を作ることを重視しています。
そうすることによって、もし新人がいきなりテストをしても一定の高いレベルを担保できるのが強みです。
アプリゲット
そういうテストエンジニアの経験値に左右されない仕組みを考えてるところがすごいなと思います。
左近充
そうですね。
SHIFTでは入社前に、テストエンジニアの素質をはかるための「CAT検定」という独自の試験を受けていただくのですが、一定水準の成績がないとSHIFTのテストエンジニアにはなれないんです。
アプリゲット
合格率6%という試験ですね。
デバッグ業界で人材厳選してるのは凄いですよね。
もっと気軽に入れるものかと。
なんなら取れる人材はすべて取るくらいかと思ってました。
左近充
それをやってしまうと事業拡大の制約になるんじゃないかと思うんですよね。
無条件で採用して人を増やせば、受けられる仕事数は増えるかもしれませんが、それによって提供するバリューが落ちてしまうのであれば本末転倒になりますよね。
そこはきっちりと足元を固めて成長できるように努めています。

同じことをやっていては参入する意味がない

SHIFTインタビュー

アプリゲット
SHIFTの考え方って本当に素晴らしいと思います。
ここまでの話全部の目線が高いですよね。
左近充
SHIFTがゲーム業界で、テストやデバッグの事業を始めたのが約7年前なんですが、当時すでに他社さんが市場開拓されていて、我々は後発の参入だったんですね。
ゲーム業界をもっと活性化させたいという思いがありましたし、参入するからには、他社さんとは異なる価値貢献やカルチャーで差別化を図ろうと考えました。
アプリゲット
7年間やられてきて、どういうところを変えられたと思いますか?
左近充
今までは最後に人手をかけて一気にやっていたテストやデバッグ業務を、ちゃんと初期の段階からテスト項目を設計して計画的に品質を上げていけるようになりました。
出たとこ勝負ではなくて、スケジュールの前半から定量的に進捗が追えて、進捗イコール品質の向上につながっています。
顧客満足度の調査を定期的に実施しているんですが、こうした部分をお客様の声として多く頂いていますし、そこが他社さんとは違う立ち位置でお役に立てているのではないかと思います。

テスト計画のとおりに進むことは基本ない

SHIFTインタビュー

アプリゲット
日々良くなるように改善されているとは思うんですが、それでもテストで大変な事ってどういう部分ですか?
左近充
大変な部分としてはテスト計画を立てても、そのとおりに進むことは基本ない、というところです。
不具合が思った以上に出てしまうとか、バグの修正に時間がかかるとか、日々変わるテスト進捗に対してどうスケジュールを調整していくか。
そこは腕の見せ所でもあり、大変なところですね。
具体的な話をしますと、メンテナンスをかけてリリース作業をしている途中で修正箇所が見つかったり、「こうすればもっと面白くなるんじゃない?」と、仕様が大幅に変わることもあります。
時には、残り1、2時間しかない中で、どういうテストで、いかに品質を担保するかが求められることもあるのですが、テストリーダーが一番苦労しているところでもあり、やりごたえのある仕事じゃないですかね。

品質を守るためにはテストだけをしている場合ではない

SHIFTインタビュー

アプリゲット
これからのテストというのがどうなっていくべきか教えて下さい。
左近充
どんな面白いゲームでも不具合があるとユーザーに選ばれなくなってしまうので、彼らの離脱を防ぐ最後の砦としてテストは必要なんじゃないかと思います。
ユーザーが当たり前に思ってるものを出さないと彼らはついてこないので、それを守ることがテストをやる意義だと思います。
これについては2つ観点があると思います。
スマホゲームは年々開発規模が上がり、開発費もどんどん大きくなっています。
失敗が許されにくい状況になっているとも言えます。
では、テストにおいてはどうなっていくのか。
テストも、自動化やAI技術の導入が顕著に始まって、人によるチェックが少なくなっていくだろうと考えています。
そうなると、技術面やビジネス面でゲーム開発を取り巻く環境が大きく変わってくるだろうと。
そのなかでSHIFTが目指すところとしては、上流工程における品質の担保です。
つまり、テストに限らず、幅広い領域で役割を担っていこうとしています。
与えられた作業をこなすだけじゃなく、お客様と一緒に品質やビジネスの側面、いかにして面白さを担保していくのかなどを、適切なコストやスケジュールでマネージメントできればと思っています。
今までのテスト業界の考え方とは、ちょっと一線を画す考え方かもしれないですが、SHIFTとしては、そこに一石を投じて新しいルールを作っていきたいと考えています。
アプリゲット
お話聞いてると、ゲームにおけるテスト業界はもっともっと良くなる気がしますね!
本日は興味深い話をたくさんして頂きありがとうございました。

※本インタビューは2020年1月にコロナ流行以前に行われたものです。記事内の写真もコロナ流行以前に撮影されており、現在は感染防止対策を施しております。

左近充さん

株式会社SHIFT
ビジネストランスフォーメーション事業本部/エンターテインメント統括部/上流支援グループ
グループ長補佐 左近充 勇人さん(さこんじゅう はやと)

ゲーム開発に15年携わる中で、品質を担保するという課題の重要性を痛感。
品質を保証する仕組みのサービス化のため、SHIFTでグループ長補佐として日々業務の改善に取り組んでいる。
株式会社SHIFTはソフトウェアテストからプロジェクト運営、コンサルティングなど、ソフトウェアの「品質」を軸としたお客様のソフトウェア開発プロジェクトにおいて、自社のノウハウやナレッジを最大限に活用したサービスを展開している。

HP:株式会社SHIFT

執筆者: 佐藤亘