Google Playにおいて「トップデベロッパー」として認められ、5月末の合同セール「Because We May」(※)にも参加した独立系デベロッパーHyperDevbox。
日本では、あまり知られていないデベロッパーだが、アイデアファクトリーのシミュレーションRPGの移植作品「スペクトラルソウルズ」はアプリ★ゲットの有料ゲームランキングの常連である。しかも、1260円というAndroidのアプリとしてはかなりの高価格設定であるにも関わらず、安定したダウンロード数を延ばしている。
※because we may
2012年5月にGoogle Playで開催されたゲームセール。Googleから声がかかった有料ゲーム十数個が半額で販売された。日本からは唯一HyperDevboxだけが参加した。
今回、その謎の「トップデベロッパー」の存在を明らかにするため、インタビュー取材をさせていただいた。インタビューから明らかになったのは、高度な技術力と海外とのコネクションを生かし、「リッチな有料ゲーム」にこだわりを持ちながら、健闘している個性的な小規模デベロッパーの姿であった。
「Androidマーケットでは有料ゲームは儲からない」という意見が大勢を占める中、ソーシャルゲームや無料ゲームに向かうことなく、高クオリティな有料ゲームで戦っていくHyperDevboxは今後も目を離せない存在だ。
目次
コンシュマー機の移植からスタート
―HyperDevboxさんはGoogle Playの「トップデベロッパー」として認められているのですが、まだまだ知らない方も多いと思います。まずは会社の成り立ち、経緯、手がけたゲームなどをお聞かせください。まず、社員の方は何名ですか?
半沢氏:
日本のオフィスは今、7名です。あとフランスには、フリーランスのグラフィックデザイナーがいます。まだまだ規模は小さいです。
―海外の方がほとんどですよね?
半沢氏:
日本人は三人います。
リカール氏:
社長はフランス人、プログラマーにはアメリカ人もいます。
―社長さんはゲーム業界で長年働いていたのですか?
リカール氏:
25年以上ゲームを開発しています。ゲーム開発者としてはベテランです。
―では、会社自体の立ち上げはいつくらいですか?
半沢氏:
設立は2005年2月14日で、今6年目です。
―当初からスマートフォン向きのゲーム開発をされていたのですか?
半沢氏:
当時はPS2、PSPなどのコンシュマー機のゲームを開発していました。日本のゲームに関しては基本的に移植を手がけて、オリジナルゲームは海外向けに発売していました。
―なるほど。コンシュマーゲームの移植や海外向けの作品を作っていたのですね。ではどういった経緯で会社が出発したのでしょうか?
半沢氏:
社長が当時別のゲーム会社をフランスで経営していて、アイデアファクトリーさんと出会ったのがきっかけで日本に来るようになったのです。やはりその時代はゲームといえば日本がトップだったので、日本で本格的に仕事がしたいとことで、オフィスを構えました。
リカール氏:
ちょうどPS2の発売のころですね。
Androidで初の1GBを超えるゲーム「スペクトラルソウルズ」開発に挑戦
半沢氏:
社長は外国人プログラマーで初めてPS2のゲームを手がけたらしく、チャレンジ精神が旺盛な人と聞いてました。アイデアファクトリーさんのスペクトラルソウルズを移植した経験から、Androidにはこういうリッチなゲームはないのでぜひ移植したい、成功させてみたいという願いがあってチャレンジしました。
リカール氏:
スペクトラルソウルズは、最初はPS2でリリースされていたものを、PSPに移植をしました。その時の移植を社長が手がけていたのです。そして、それをAndroidに移植して、7月12日にはiPhone版がリリースしました!
半沢氏:
そうですね、iPhoneへの移植は、海外のユーザーさんから「iOS版にもスペクトラルソウルズを出して欲しい!」という声が多かったこともあります。まだまだ、スマートフォンでシミュレーションRPGは少ないので、iPhoneでも成功するかなと思ってリリースしました。
―Androidに移植したきっかけは、こういうリッチでボリュームのあるゲームが少なかったということがあるのでしょうか?
半沢氏:
そうですね。あとはAndroidの市場が伸びると予想したことが一番です。
―Android版のスペクトラルソウルズがリリースされたのはいつですか?
半沢氏:
英語版が去年の1月、日本語版が2011年2月です。
その時はまだAndroidで遊べる日本語のRPGはほとんどなかったので、目新しかったと思います。
―そうですね。当時はAndroidのRPGといえばスペクトラルソウルズだってくらいに、唯一無二の存在でしたね。
半沢氏:
ありがとうございます。そうですね。だから無いものを出していきたいという思いは強かったです。
―今まで無いものにチャレンジするというのは素晴らしいことですね。しかしながら、成功する見込みはどれくらいあったのでしょうか?新しいものに挑戦する怖さなどはなかったのでしょうか?
半沢氏:
確かに怖さはありました。誰もそんなゲームが作れるとは、信じてくれなかったです(笑)。家庭用ゲームをAndroidに移植するのは難しいとみんな言っていましたので。ましてや1GBというボリュームのゲームなんて、そんなの無理でしょうと。。
―そもそもAndroidで初めて1GBのゲーム、アプリが登場したってこと自体、スペクトラルソウルズが世界初でしたよね。
半沢氏:
はい、世界初でした。そもそも、そんなに長いダウンロード時間、ユーザーさんが待ってくれるのかとか、あとは値段も1000円以上という高価格のものはほとんどなかったので、不安はありました。それでもユーザーさんには値段相応の価値があることを理解して欲しかったという気持ちもあり、高い価格設定をしたのです。
GoogleやNVIDIAからも評価される技術力
―特にプロモーションなどはしなかったのですか?
半沢氏:
海外で少し
―海外メディアのレビューなどで高評価を頂いたということもありましたか?
半沢氏:
いただきました。「HyperDevboxがAndroidをゲームマシンに変えた!」といったキャッチコピーで記事やレビューをいただきました。
―そういった実績を買われて、Google I/Oに招かれたのでしょうか?
半沢氏:
そうかもしれません。スペクトラルソウルズの開発の途中からもGoogleさんからお声をかけていただいておりました。2009年のGoogle Developer Dayに、スペクトラルソウルズのようなゲームがAndroidで開発することが可能だということを、開発者たちにぜひ公表したいということでお招きいただきました。
ゲーム会社としては一社だけだったのですが。また基調講演でもスペクトラルソウルズをご紹介いただいて、Android向けにこういう開発が可能なのですというお話をしていただきました。Googleさんとの直接の付き合いはその時から始まりました。
―なるほど。技術力が買われて、Googleの方から声をかけてきたのですね。
半沢氏:
ロボットのシューティングゲームのExZeus Arcadeを配信後、HyperDevboxがどのような開発をしているのかGoogleさんからお声がかかりました。その後、スペインのバルセロナで開かれたMobile World CongressにもGoogleさんからブースを頂いて展示を行いました。
―Googleにとっては、Androidという端末の性能を発揮できるということを証明して欲しいということでしょうね。もっとリッチなゲームをAndroidで楽しんで欲しいと。
半沢氏:
そうですね。
―そういった中で、HyperDevboxさんに白羽の矢が立ったのはどうしてでしょうか?
半沢氏:
偶然の部分もありましたが、やはりチャレンジングなことをしていることが評価されたのだと思います。例えば、ExZeus Arcadeのダウンロードをするときに、SDカードにアプリを移動させるという技術などを弊社が開発したり...
Android端末の性能を引き出したりした部分でも、サウンドエンジンを独自に開発し、音の面でもこだわっています。そのサウンドエンジンは、海外のデベロッパーさんからも購入したいという要望があったりもしました。最初は販売していましたが、今はうちだけで使おうということになって、販売するのはやめました。
後はコンソール機のゲームの移植をAndroidで行うのは無理だと言われていたのですが、それを成功させたことが大きいですね。
―つまり、今まで誰もやってこなかったことを、どんどん挑戦して、成功させたと。
半沢氏:
今回のGoogle I/Oも出展した会社は50社くらいです。ゲーム会社は多分そんなに多くなかったようですが、セガ、ゲームロフト、EA…。
―すごい!大手ゲーム会社の中に並んでいたのですね!
半沢氏:
うちのような小さな会社を中に入れていただいて。
リカール氏:
これがこないだのGoogle I/Oで公開したExZeus2
―リッチなグラフィックですね。
半沢氏:
実はこのExZeus2はNVIDIAさんとも共同で開発をしてまして、Tegra3を搭載した端末に対応させています。
リカール氏:
もちろん、他の端末にも対応しているのですが、やはりTegra3のバージョンのほうが、グラフィックや動きはいいですよね。
半沢氏:
後は、弊社のゲームは多くのユーザーさんに遊んでいただけるよう、1.6などの古い端末でも動くように作っています。
―それはすごいですね。確かにスペクトラルソウルズはリッチなゲームなわりに、意外とどんな端末でも遊べるのは驚きましたね。
半沢氏:
ありがとうございます。解像度も端末に合わせて自動的に調整できるようになっています。一番いい解像度で遊べるように。
―HyperDevboxさんは多くの端末で遊べるようにしているという点でも技術力が高いのですね。
半沢氏:
開発会社さんとお話したことがあるのですが、みなさん端末検証が大変で、端末を購入したりするのにお金がかかる。
そのため、開発費用がかかる割にはAndroidは売上が少ない。だから、「どうやっているのですか?」って聞かれることは多いです。実はあんまりそんなに何台も検証を行っているわけではないのです。社長の中で、いくつか検証すれば後はすべてうまくいくみたいなコツを技術の面でわかっているんですよ。
リカール氏:
もちろん何台かはしています。
リカール氏:
まずは基本的なことですが、スペクトラルソウルズもジェネレーションオブカオスもそうなんですが、端末のGPUのいくつかの処理がありまして、そのGPUに合わせたバージョンをちゃんと作っています。例えばスペクトラルソウルズはPowerVRとか、Tegraとか、Qualcommのバージョン等、GPUごとに作りました。
有料ゲームで成功するためには?
―Androidのマーケットは儲からないという一般的な話がありますよね。特に日本では有料のゲームはほとんど儲からないというのが定説になっていると思います。しかし、HyperDevBoxさんのゲームは有料かつ価格も高く設定されています。そういった中でどれくらいのダウンロード数や売上を上げているのでしょうか?
半沢氏:
スペクトラルソウルズのダウンロード数は、グローバル版では10万くらいですかね。あと韓国でも今リリースしています。
リカール氏:
韓国だけで7万超えていて、全部合わせると17万くらいですね。ジェネレーションオブカオスはスペクトラルソウルズに負けず、ダウンロード数は保ってます。
半沢氏:
英語版の方がダウンロード数が多いですよね。
リカール氏:
そうですね。アメリカ市場が一番大きいです。次はヨーロッパです。
―リリース当時と比べて、現在のダウンロードのペースはどうなんでしょうか?
半沢氏:
リリース時は上位を保ってましたが、その頃に比べれば少し落ち着きましたが、先日のインディーズゲームのセールでは
リカール氏:
Because We Mayのセールですね。(笑)
半沢氏:
その時は、バーンとランキングも上がって。
―あのBecause We Mayのセールに参加した経緯などもお聞きしたいです。あれは日本ではあまり報道されていなかったのですが、インディーゲームのデベロッパーの合同セールだったんですよね。インディーゲームの大規模合同セールのBecause We Mayにはどういう経緯で参加したのですか?
半沢氏:
Google Americaからお話が来て「参加しませんか?」とお誘いいただいたのですが、それも最初からスペクトラルソウルズを半額でお願いしますと。
―セールが始まるどれくらいに話がきたのでしょうか?
半沢氏:
直前の、一週間前でしたね。
―ゲーム販売におけるプロモーションなどもされているのですか?
半沢氏:
プレスリリースは出していますが、それほど積極的にはやっていないですね。レビューサイトなどで取り上げていただいたことが大きいと思います。あとは自然に広がった感じです。
―ということは、開発以外の費用はそれほどかかってないということですか?
半沢氏:
そうですね。かかっていないって言えるかな?ちょっとスポーツ新聞などに出稿したことはあります(笑)。
―スポーツ新聞!スポーツ新聞に広告を?
半沢氏:
こういうのに出したりしています。
―こういった紙媒体での広告の効果はありましたか?
半沢氏:
正直分からないですね。
リカール氏:
それでも名前だけでも知っていただければと思っています。認知度は高くなるだろうと。
―そもそもどうしてスポーツ新聞の方とお付き合いがあったのですか?
半沢氏:
そもそもはスペクトラルソウルズのつり革広告のお話しをいただいたのがお付き合いの始まりで。
有料ゲームをリリースするというプライド
―現在のAndroidのマーケットでは、有料ゲームでも人気があるスペクトラルソウルズは珍しい事例だと思います。今後、手がけるタイトルもそういったリッチなゲームを、高めの価格設定でリリースしていくという方針なのですか?
半沢氏:
はい。二つのラインで行く予定ではありますが。自社オリジナルのアクションゲームとRPGなどのボリュームのあるゲームの二本で行く予定です。
―無料ゲームをリリースしたりすることはないのでしょうか?
半沢氏:
今のところはありません。
―HyperDevboxさんのように、有料ゲームに挑戦しても成功する可能性はどの程度あると思いますか?
半沢氏:
今は一年前と異なり、アプリの数がすごく増えてしまったので、やはり、目立つゲームを作らないと有料ゲームでも厳しいかなと思います。
―では、HyperDevboxさんが有料ゲームに挑戦しつづけるというのは、自分たちが作っているコンテンツや作品にプライドを持っているということなんでしょうか?
半沢氏:
社長が価値のある有料ゲームをリリースするというポリシーを守っています。、
―今後、リリースしていくタイトルも1000円クラスの価格帯で挑戦していくのでしょうか?
リカール氏:
コラボレーションでやっているRPGはそうですね。オリジナルのゲームはまだわからないですが。
―次、一番早くリリースされるのはどのタイトルでしょうか?
半沢氏
8月に「ExZeus2」とスペクトラルソウルズの続編「ブレイジングソウルズ」がリリースされます。
今後の会社の発展にはまだまだ足りない人材:目下社員募集中
―アイデアファクトリーさん以外のゲーム会社とコラボレーションをする予定などはないのですか?
半沢氏:
確定しているお話はありませんが、ときおり移植のご提案はありますね。
―本当はもっと挑戦したい会社もあると思いますが、現状は様子見ということでしょうか?
半沢氏:
是非、検討はしていきたいです。
―御社としてはそういう移植やコラボレーションはやりたいのですか?
半沢氏:
まあ、やりたい?(リカール氏に対して)
リカール氏:
プロジェクトによります。(笑)
スタッフが好きなジャンルであればやりたいですね。
半沢氏:
あとは人手ですかね。Androidで開発できるプログラマーさんがもっと増えていけば。
―人はどんどん増やして、会社の規模は大きくしていきたいのでしょうか?
半沢氏:
はい、少しずつ。
―人材を探すのは今だと難しいですよね、エンジニアの数も足りていないといいますし。足りていないのはプログラマーさんですか?
リカール氏: 全部ですね。(笑)プログラマーの他に、グラフィッカーも募集中です。
半沢氏:
今は人が少ない分、一人何役かこなしている感じなので、もうちょっと増えていくとうれしいです。
―では、社員募集中ですということですね!ただ、社内では言語は何を使用しているのですか?
半沢氏:
みんなバラバラですね(笑)。フランス語、英語、日本語。分からない時は誰か別の人を呼んで、ちょっとこの人何言っている?みたいな(笑)それでもコミュニケーションはとれていますよ。日本語しか話せなくても大丈夫ですよ。
-本日は長時間、ありがとうございました!
ハイパ-デブボックスジャパン
http://www.hyperdevbox.co.jp