KLab ゲームプロデューサーインタビュー 海外展開、そしてゲーム作りの考え方

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執筆者:編集部


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KLabGames1部 統括プロデューサーの 野口真吾氏にお話しを伺うことができた。

コンプガチャ問題が世間を賑わした5月。いち早く、コンプガチャの全面停止を宣言し、業界におけるリスク管理能力を見せたソーシャルゲーム業界大手のKLab株式会社。

今回は同社のKLabGames 1部 統括プロデューサーの野口真吾氏にソーシャルゲームのプロデューサーとしての仕事、海外事業の展開についてお話をうかがった。

業界全体に対する向かい風がありながらも、インタビューでは今後の海外戦略や、ソーシャルゲームのトレンドの変化だけではなく、ソーシャルゲームの本質といった内容に踏み込むなど、非常に興味深いお話を聞くことができた。

10の案件が水面下で進行中

―まずはソーシャルゲームのプロデューサーである野口さんのことについて伺いたいと思います。現在、入社何年目でしょうか?

いま6年目ですね。新卒で6年目です。

―ゲームづくりに携わったのはいつ頃からですか?

入社してすぐに一本のゲームをキャリアの公式サイトで作りました。その後、自社のSNSサービス内でもゲームを制作したのですが、現在のソーシャルゲームほど本格的なものではありませんでした。本格的に作り始めたのはmixiがオープン化した後に提供を開始したゲームからですね。

―これまでに関わったゲームタイトルを教えて下さい。

最初に携わったソーシャルゲームは「トイボット・ファイターズ」です。その後は、男性向けタイトルとして「戦国バスター」、女性向けタイトルとして「恋してキャバ嬢GP」を制作しました。

現在は国内と英語圏向けのネイティブアプリを複数制作しています。

iOS向けに提供されている戦国バスターシリーズ.

―現在、KLab社内ではソーシャルゲームはどれくらいの人が関わっているのですか

海外支社も含めて全体の6~7割くらいがソーシャル関連の仕事をしています。そのうち約半分がエンジニアです。

―ログ解析の方もどんどん増えているのですか?

そうですね。案件が増えると解析するデータ量も増えるので、データ分析やマーケティング職の採用も強化しています。

―社内でプロデューサーと呼ばれる方は何人くらいいるのでしょうか?

4、5人くらいです。

―野口さんが管轄しているタイトルは何本くらいになるのでしょうか?関わり方にもよると思いますが。

昨年は運用の効率化を図るために自社の女性向けゲームを統括していました。その後、会社の上場を皮切りに海外市場へ本格的に参入するため、海外部門ができた頃から管轄していた案件を全て引き継いだ上で、現在は国内・英語圏向けのネイティブアプリを10タイトルほど開発中です。

―なるほど。プロデューサーとして関わるときは、海外のものも国内のものも同じように見ているのですか?例えばデータを分析したりする際には。

基本的なアプローチ方法は一緒です。ただし考え方や見どころは違うので、そこは柔軟に対応します。

Webアプリとネイティブアプリの両軸展開

―ひとつのソーシャルゲームの開発にはどれくらいの人が関わっているのでしょうか?

人数は目安で言うと大体、企画・クリエイティブ・開発合わせて10人位のチームでやることが多いです。実際には、ちょっとだけ仕事に絡む人を入れると、15人くらいになりますが。

後は最近、ウェブアプリで作るときとネイティブアプリで作るときで、構成がかなり変わってきますね。

ウェブで作るときは10人体制位でやっているんですけど、ネイティブで作るときは、かなり開発にパワーが必要になってきますので、今開発中のものだと一番多くて30人くらいですね。

―ネイティブアプリはiPhoneアプリですかAndroidアプリですか?

両方制作しています。それ以外のプラットフォームにも展開予定です

―ウェブアプリで作るのとネイティブアプリで作るのではどういったゲームの違いがあるのでしょうか?

基本的にはネイティブアプリの方がよりゲームらしいリッチなものが作れます。最近はゲームのリッチ化が顕著になっているので、ネイティブアプリの開発に力を入れています。ウェブアプリの利点としては、ネイティブアプリと比べて素早く開発できるので、ゲーム性によってはウェブで制作した方が良いケースもあります。

それぞれに利点があるので、ウェブとネイティブをバランスよく開発する体制を構築しています。

―ではコスト面では、どうでしょうか?

ウェブアプリと比べてネイティブアプリの開発費は倍近くかかりますので、コスト面ではウェブアプリに利点があります。しかしネイティブアプリも一度ゲームエンジンを構築すれば次に作るタイトルではコストが抑えられますので、次第にコスト面も改善されてくると思います。

―なるほど。ではウェブかネイティブかというのは一長一短なんですね。

そうですね。一長一短なので、しばらくは両方をやっていきます。どちらかに偏ってしまうと、トレンドが変わったときに対応が遅れてしまうので、そのような事態は避けたいと思っています。

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社内には人気キャラのパネルも。

夏までに英語圏向けタイトルをリリース

―野口さんは海外事業部のリーダーをされているということをお聞きしたので、海外での戦略について伺いたいと思います。国内のソーシャルゲームだとIP(知的財産)があるものがやはり強いと聞きます。海外で展開するときはどのような戦略をお考えでしょうか?

IPタイトルは海外でも強いですが、オリジナルタイトルも支持されていますので、国内での戦略と同様にIPとオリジナルタイトルをバランスよく提供したいと考えています。制作したタイトルは多言語対応・カルチャライズをする事で、複数国で展開したいと考えています。

―どうすれば支持されるタイトルを作ることができるのでしょうか?

何をもって支持されているのかという定義が難しいので一概には言えませんが、ゲームの設計であれば、日本のマーケットを調べるのと一緒で、海外の特徴的なゲーム設計が存在するのでそこをまず把握したうえで開発します。

そうやって骨組みを作り、それができたら今度はそこに乗せるテーマを考えます。テーマは日本で売れているタイトルや海外で売れているタイトルを見れば、一定の傾向が分かります。そこで「ここは外さないよね」というポイントのものをリリースする。その後、反応をみて調整していくという感じで作ります。

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―具体的にこういったものが支持されるだろうというテーマについては既にアイデアがあるのですか?

そうですね。リリース前の情報なのでちょっと言えないですが。

―現在、制作しているもので海外向けのものは何本あるのですか?

海外向けですでに動いているのは、英語圏向けでは5本位です。一番早いものでは夏前までにはリリースする予定です。

―英語圏以外のマーケットも考えていますか?

中国も考えています。最近は急速にマーケットが成長しているので、それ以外の国も考えられます。

―海外展開に関しては、以前のインタビューで「ローカライズ」という点を強調されていたと思います。その場合のローカライズというのは具体的にどういったことなのでしょうか?

テキストの言い回しをかえたり、UI・イラスト・ゲームバランスを提供国に合わせてチューニングします。

英語圏向けに関しては、KLabAmericaのメンバーと一緒に調整しています。

―ゲームバランスも国内と海外では違いがあるのですか?

違いますね。プレイ時間がまず違うので。どういうスタイルでプレイすることが多いのかによってプレイ時間が変わります。家でまとまった時間をとってやるのか、移動しながらやるのか、むこうの休憩時間にも関わってくるし、余暇の時間にも関わってきます。

―つまりライフスタイルによってゲームバランスも変わってくると?

そうですね、ライフスタイルがそもそも日本と違うので、当然変わってくると思います。

―今後日本と海外どちらかに比重おくことはありますか?

基本的にはどちらにも力を入れてサービス展開して最大化を目指します。しかし現在は、マーケット規模や展開先が多い関係で海外の方がより多くのリソースをかけて対応しています。

ソーシャルゲームをとりまく状況について

―話をすこし元に戻させていただきます。日本における現状のソーシャルゲームの話題について伺いたいと思います。世間では、5月からコンプガチャの問題で、ソーシャルゲーム業界が大いに話題になりました。KLabさんはかなり早い段階でコンプガチャを全面停止しましたが、それはコンプガチャ以外での方法で今後のソーシャルゲームの展開がまだまだ可能だという理由からですか?

コンプガチャの停止は、企業のコンプライアンスを考えると当然の話です。他の会社を待って対応が遅くなる理由がなかったので、会社の方針としていち早く対応しました。

―なるほど、さすがですね。ソーシャルゲームに対する意見のなかには、特にもともとゲームが好きな人がよく言うような「ゲームじゃない」みたいな批判もあるかと思います。そういった意見に関してはどう考えているのかも、お聞かせいただけますか?

人によって受け取り方が変わるのは当然だと思います。しかし、ソーシャルゲーム市場が拡大して一定の規模に達している現状を考えると、それが受け入れられている一定の理由があると思います。

また最近の傾向として、ゲームのリッチ化が顕著に進んでいますので、次第にコンソールゲームとの境界線がなくなってくるかもしれません。

論理的思考について

―ソーシャルゲームのプロデューサーとして他社のゲームを研究するとき、重視するポイントはどこですか?

基本的にはゲームを構成する全ての要素を分解して捉えています。特にゲーム設計やUI、クリエイティブは注視しています。

―「これは新しいな!」と気づくポイントはどこにあるのでしょうか?

これまでのゲームと比較して共通項を探して、どれとどれが一緒で、どのコードが違うか、共通項以外のものの本質はどこにあるかなどを見極めています。

―なるほど。非常に論理的に考えているのですね。

なるべく物事を論理的に分解して捉えるようにしています。

―プロデューサークラスになるためにはそういった思考が必要なのですか?

社内にはそういう思考の人が比較的多いです。

―その論理性はソーシャルゲームの構造がそうさせているのですか?

ソーシャルゲームの基本設計は体系化されやすいので、そういった傾向は強いかもしれません。考え方自体はソーシャルゲームではなくても、サービスであれば当てはまると思います。

―つまり、そのような論理的思考は他のマーケットにも適用できる考え方ということですか?

そうですね、考え方自体はすぐに適用できます。ゲーミフィケーションと呼ばれていることの本質はそこにあるのだと思います。

―素人意見かもしれませんが、エンターテインメント産業においてはそういった論理的思考はどちらかといえば、縁遠いものだと考えられていると思います。しかしながら、野口さんのお話を聞いているかぎり、エンターテイメント性が高いものをプロデュースするということと、論理的に考えることは、基本的には一致するとお考えのように感じられます。

基本的には一致すると考えています。企画を立てる時には、ひらめきを重視したり、職人気質な人もいるかと思いますが、自分は理で考えることが多いです。ひらめきが必要な時は理の逆を意識して排他的な思考で考えたりします。

―では他の会社のソーシャルゲームについて感じているころなどがあれば伺いたいと思っています。海外企業のなかでは大手ネットゲームの会社が、ソーシャルゲームを多くリリースするようにもなってきました。例えば「パズル&ドラゴンズ」のような新しい形のタイトルに対してはどう感じていますか?

ゲーム骨子もUIも良くできていて、きっちり考えて仕上げられているなという印象です。

―新しい発見はありましたか?

ソーシャルゲームの背景として、初期の頃はゲームに慣れたユーザーも少なく、出来る限りストレスを感じさせない構造にするという観点でシンプル化が進んで、ワンボタンで進むようなサクサク感が受け入れられて現在のような構造に発展していった経緯が少なからずあります。端末の操作性も影響していると思います。

そのため、これまでのソーシャルゲームユーザーの趣向として「あのパズル部分を長くプレイするとプレイ進行の邪魔になるのでは」とも思っていたのですが、それが受け入れられた点です。

mobageやgreeでリリースしていたらどうなっていたのか、ユーザーの心理が気になりました。

スマートフォンの普及により端末の操作性や表現力が格段に上がった点や、ユーザーのリテラシーの向上を考えると、今後のソーシャルゲームのリッチ化は加速していくと思います。

海外のソーシャルゲームでは元々ゲームらしいゲームが多いので、どこかでクロスするタイミングがくるかもしれません。

―さきほど「アプリで作るものはリッチである」ことに重点を置くということをおっしゃっていましたが、単純に演出面だけのリッチさでなくて、ある種の「ゲームらしさ」みたいなものの要素を増やすという方向性もありうるということですか?

それは当然、あると思います。

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とても論理的にわかりやすくお話してくださった

ソーシャルゲームの本質とは?

―海外の規模で考えたら、コンシューマーやPCにおけるメジャータイトルは本当にFPSが多いわけですよね。またリアルタイムストラテジーみたいなジャンルも多いと思います。そのようなゲームは日本ではまだまだコアなゲームなものとして扱われているのですが、そういったもののソーシャル化ということも今後の展開としては十分にありうるとお考えでしょうか?

提供するマーケットにもよりますが、解釈の仕方によっては、道を誤ってしまう可能性も考えられます。

「既存のものをソーシャル化」という考え方で制作すると、ソーシャルに必要な要素を後付けする類の作り方になる事が多いため、設計がうまくワークしないリスクが高まると考えています。

ですので「既存タイトルの良さを要素としてソーシャル(ゲーム)に取り入れる」という考え方を持っています。

―なるほど。例えばFPSにおいてはエイミングするとか、相手を狙う、その部分だけを取り入れるということでしょうか?

そのようなゲームにおいて何が受け入れられているのかを要素分解して、その要素をソーシャルゲームに取り入れる場合はどのような設計になるのかという思考で考えています。FPSそのものをスマートフォンで再現するという動きは十分ありえると思いますが、それはFPSを得意としている会社がまず先にやると思います。そこに追いつこうとは考えず、あくまでその要素をソーシャルに持ってくるとどうなるのかと考えます。

―逆にテーマから考えた場合、例えばカードゲームみたいなものとして戦争ものに取り入れるとかお考えでしょうか?

カードモデル=ソーシャルゲームというわけではないので、そこに固執するつもりはないです。

―なるほど、そうすると野口さんのお考えになるソーシャルゲームの本質部分はどこにあるのでしょうか?

人によって解釈が異なるので本質部分を定義化する事は難しいですが、サービスの特性を考えると、リアルコミュニティやゲームコミュニティを活用して遊べるサービスで、性質としてはオンラインゲームにも似ていますが、非同期の擬似オンラインで遊ぶ事が多いので、サービスの区分が異なるのだと思います。

―なるほど。

そこでゲームのプレイを通じてネットワークを拡大させて、規模を広げていく。この広がっていく構造がいわゆるソーシャルです。ゲームの構造自体はオンラインゲームとそれほど変わりません。

―なるほど。それは興味深く、非常にわかりやすい考え方ですね。ありがとうございます。

ソーシャルゲームの未来

―今後国内外あわせて、数年単位でなにか展望などをお持ちですか?

市場が劇的に変わった場合以外は特に想定していません。特に今回みたいなケースで抜本的に規制等が入らない限りは、マーケット規模からしてなくなるということはないので、その中でシェアを取っていくということになります。

―なるほど。市場が確立したと見てそのなかでシェアを取っていくと?

市場の規模から推測するとそうですね。一過性のサービスではここまでの市場規模にはならないと思います。

―長時間、ありがとうございました。これからも面白いゲーム、期待しています!

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