『かまいたちの夜』や『不思議のダンジョン』シリーズのチュンソフトと、『侍道』シリーズや『ダンガンロンパ』『喧嘩番長』のスパイクが2012年4月に合併して誕生した「スパイク・チュンソフト」。
そのスパイク・チュンソフトが、2012年6月末に「2012年夏リリース」として制作を発表したのが
「Blade & Magic(ブレード&マジック)」だ。
ところがこの「Blade & Magic」、同年7月4日には芸能人を招き、DeNAと共同で記者発表会まで実施したのだが、配信予定の夏を過ぎてもなかなかサービスが開始されない。
結局リリースされないまま時は過ぎ、半年たった2013年2月にめでたくリリースされた。
延期中もmobage内での事前登録受付は継続され、リリース前日に受付を締め切った段階では事前登録者数は既に10万人を突破していたということからも、DeNA側からの、そしてなによりもユーザーからの期待の高さがうかがえる。
かくいう私も事前登録してリリースを心待ちにしていた一人。
あのリリース延期の裏でいったい何があったのか!
どうして半年もかかってしまったのか!
事前登録をして楽しみにしていた一人として、プロデューサーの本橋大佐氏に特別にお話しをうかがうことができた。
目次
きっかけはパートナー会社からの企画持ち込み。でも「これじゃ売れない」
―――発表は2012年6月27日にされたと思いますが、企画の着手はいつ頃だったんですか。
本橋氏:
冒頭からで恐縮ですが、お待ちいただいてしまったユーザーの皆さんに心からお詫び申し上げます。
改めまして、着手自体は1年と2か月くらいまえです。
―――では2011年の暮れに?
本橋氏:
そうですね、2011年の11月ですね。
―――企画のきっかけはなんだったんですか?
本橋氏:
開発のパートナー会社があるんですけど、実は最初はそこが今のものとはまったく違う企画を持ってきたんです。
バトルがぐりぐり動き回るロボットもので、若干のストラテジックなものがあってという……。
で、「おもしろそう……でも、これじゃ売れない」、と。
あと「個人的に好きじゃない」と申し上げまして(笑)
それで世界観とバトルパートの方も、もともとこちらで考えていたものを被せまして、そこの会社さんと一緒にやっていった、という感じです。
ただ、原型はほとんど残っていませんが、その企画がなかったら始めていなかったですね。
きっかけとして感謝してます。
―――アイデアは本橋さん発だったんですね。
本橋氏:
そうですね、わたし個人が『インフィニティブレード』を遊んでいて、めちゃんこ楽しかったんですね。
それでその後『キングダムコンクエスト(以降、キンコン)』にもハマりました。配信開始直後から遊んでいましたよ。
なので、『インフィニティブレード』のバトルとしての面白さと、キンコンで味わったような成長がビジュアライズされて大きくなっていく、といった魅力が組み合わさったら面白いんじゃないかと。
キンコンのメインディッシュは、そこじゃないことは理解してです。
もちろん、世界観、レベルデザイン、システムサイクルなどは、私達のオリジナリティを発揮してですが。
そして、舞台はファンタジーで!
これはもう個人的な趣味もありますが、ワールドワイドを考えたら自然な選択です。
この記事みられたら社内で怒られちゃいそうですが。
「そんなんで仕事決めんじゃねぇ!」って(笑)
企画が通った後は、バトルパートの試作版を3か月間作りました。
その段階で「あとプラス3か月くらいで作れないの?」と当時社長だった中村(スパイク・チュンソフト 代表取締役会長、当時 チュンソフト 代表取締役社長)に言われまして。
「これ4月には出せるね」みたいな話がはじまったので、「いやいやいや…ちょっと待ってください!」と。
「僕だったらやるね!がんばろうよ!」と言われた記憶が……。
ただ、そういうときの中村の目をランランとさせながらの表情は、グッとくるものがあるのですよ(笑)
最初は単独配信タイプでの展開を考えていた
―――結果的にDeNAさんと組むことになりましたが、どういう経緯があったのでしょうか?
本橋氏:
正式に決まったのは、実は記者発表会のちょっと前ですね。
実は最初はDeNAさんにもグリーさんにも頼らず、自社パブリッシュの戦略を採っていたんです。
5月までは。開発もそのつもりで進めておりました。
経緯としては、DeNAさんに『Blade & Magic』を、チョットだけよ……アナタも好きねぇ的に、ちら見せたところ、「うお!なんだこれ!!」と素のリアクションをいだきまして(笑)。
当時DeNAさんはネイティブアプリをすごく欲していて、更に、ものすごい気に入ってくれて、「ぜひうちに」と。
で、「ヤダ」と(笑)
―――え~! 見せたのに「ヤダ」だったんですか!?
本橋氏:
ずっとヤでした。はい。
「単体でやりますから」と。
それでも、DeNAの担当責任者の方が、一旦案件として持ち帰ってくれたんですね。
その後、こちらが元々リリースを想定していた海外の、アメリカと韓国、中国の担当の方に見てもらったらしく、全員が全員こぞって「欲しい」と言ってくださいまして。
―――おー!そうなると話は変わってきますよね。
本橋氏:
そうなんです!「国内は自分たちでやるけど、海外はお願いします」とかいう本音はあっても、そんな都合のいい話が通るわけがないので、最終的に一緒にやることに同意させていただいた、という感じですね。
また、この企画が立ち上がる以前ですが、守安さんと食事をご一緒させていただいたときに言われた「世界のてっぺん獲りましょうね!」という言葉を思い出したんです。
冗談ではなく目がマジだったんです。
なんていうか・・・そういうの私大好きでして(笑
―――そしてあの発表会が?
本橋氏:
そうですね。守安さんにも来ていただいて。
ただ、(マーケット直置きからmobageでの配信への)プラットフォームの変更によって、ユーザー層も元々狙っていた、『キングダムコンクエスト』だったり『インフィニティブレード』のユーザーのような、ゲーマーではないけどゲーマーに近いユーザーから、カジュアルユーザーになってしまったんですよね。
なので、ライトな内容というか、カジュアルなゲームしないと、厳しいなというところがありました。ゲームバランスと、そもそものゲームシステムをもう一回見直そうということになりました。
プラットフォームの変更と関係者レビューの結果、延期を決断
―――では、2012年夏リリース予定だったものがいったん延期になったのは、単体モデルからmobageに乗せるモデルへの変更が理由だったということでしょうか。
本橋氏:
プラットフォームの変更が影響なかったとは言いませんが、大部分は、私たちの責任です。
ゲームとしてのわかりやすさや感触部分をもっと考え直したかったというのが本音です。また、スマホのネイティブ開発は初でしたし、世間的にも技術情報の出まわりが少ない時からやっておりましたので。
キレイゴトを言っても、ターゲットが変わろうが変わるまいが、事実としては、仕上がった最初のバージョンはわかりにくくて、めんどくさかったんです。あと想定の仕様になってないとか(苦笑)
とにかく、バトルありの、箱庭ありの、生産ありと、要素がたくさんありますので、消化不良になっちゃてたんですよね。Mobageユーザーを意識するあまり、必要なことも伝えられていないのに、チュートリアルは短くしていたりで。
社内レビューで、特に事務系の女の子なんかに触ってもらったら「よくわかんなーい(あは☆」みたいな反応だったので、「これは想像以上にマズいぞ」と。
そういう状態だったので、一回根本から作り直そうということになりました。特に箱庭パートを。
箱庭の王国シミュレーションってゲーマーにはわかりやすいんですけど、ゲーマーじゃない人には想像以上になじみがないんですよね。
わかりやすさを最優先にして、箱庭をきっかけにしてバトルパートと世界観を全部組み合わせてリンクさせる形のサイクルに取りなおさせてくださいという話をして、「時間がほしい」と。
ものすごい怒られましたけども。
―――おそらく相当もめたのだと思いますが、結果的に時間をもらえたわけですよね。
本橋氏:
やっぱりタイトルのポジションとしても独特ですし、「ここまで来たらやろうよ」って。
もちろん、そんな優しい言い方ではなかったですけども。
―――DeNAさんにも説明に行かれたんですよね。
本橋氏:
はい、まず謝罪に行きました。ただ、DeNAさんは説明後、すごく建設的でスムーズでした。
彼らの姿勢なんでしょうけども、ちゃんとした理由があって、より良くなるのであれば、その時間は構わないと。いかようにも編成します、ということをおっしゃっていただいて。
本当にすごく感謝しています。きっかけを作ってくれた担当責任者の方には、きっちり借りを返したいです。個人的にも成功を分かち合いたいと思える方ですので。
会社には「改修」と言ったが、実はほぼイチからの作り直し
―――実際の作業としては、どの程度の作り直しになったんですか?
本橋氏:
アイテムが基本的な接着剤になって、ゲーム内のシステムとシステムをつないでいるんですが、その流れは9割方変わっていますね。箱庭にいたっては100%変わりましたね。完全に作り直しました。
(ほぼ、イチからの作り直しが必要だったことは)会社にあまりはっきり言ってないです(笑)
「改修です!」って。もちろん、間違ってはないですし。
―――そうだったんですか!? よく半年でリリースまでもっていきましたね!mobage事前登録受付もずっと継続されていますが、今事前登録者数で何人くらいいらっしゃるのですか?
本橋氏:
10万人は余裕で超えてました。
―――10万人以上! プレッシャーとかすごいんじゃないですか?
本橋氏:
いやあ、もうプレッシャーだらけですよね!
怖いですよ。
シャワーとか浴びていると、走馬灯のように「あのときああだったなぁ…」とか、突然「ん……?そうかこうやればよかったのか!」とか……。
関わった方々は100名以上
――開発にかかわった方は何名くらいいらっしゃるんですか?
本橋氏:
延べで言うと深い浅い合わせて100名を超えてます。求められることも家庭用ゲーム規模と何ら変わりない。運営考えれば、さらにですね。
サーバー系はWebアプリとたいして変わりはないのです。やっぱり人手がかかるのは3Dの部分ですね。
ただ、ここが差別化のひとつなので。
―――では、人数的にもグラフィッカーが大半を占めていたりするんでしょうか。
本橋氏:
グラフィッカーとソフトウェアプログラマーです。比率で言えば全体の半分以上にになります。
グラフィックについてはうちの第三開発という、名古屋にある部署で担当してもらっています。
―――では、結構名古屋に行き来したりしたんですか?
本橋氏:
えっとですね、行く行く詐欺で1年間終わりましたね(笑)
「名古屋来てください!」とは毎回言われるんですが、「じゃ、テレビ会議で!」と。
―――え、じゃあ一度も行かずに?
本橋氏:
ホントは行きたいのです!(笑)
ただ、この会社に入社してからまだ名古屋一回も行ってないです……。
手前味噌で恐縮なんですけど、名古屋のグラフィッカーの皆は、本当にクオリティが高くて、私は生え抜きの社員ではないのですが、(以前いた会社と比較して)その点から見ても決して全然負けてない以上のレベルで、すごくイイです。
スピード・実行精度・クオリティの三拍子揃ってます。
―――安心して任せられているから直接行かなくてもうまくいっていたんですね
本橋氏:
そのとおりです。
音楽は伊藤賢治氏。ただし伊藤氏本人がそのことを知ったのは社内で企画が通ったあと。
本橋氏:
あと実はメインイメージなんかを描いているのは、長年「風来のシレン」シリーズのキャラクターデザイナーの長谷川という人間なんですよ。
―――音楽もイトケンさんですし、豪華ですよね!
本橋氏:
イトケンさんはもう個人的なつながりで。
在籍時期は被ってないですが、スクエニの大先輩ですので。
伊藤賢治氏
1990年3月 株式会社スクウェア (現:株式会社スクウェア・エニックス)入社。
同社のゲーム作品の音楽担当としての活動を開始する。
代表作に『ファイナルファンタジー外伝 聖剣伝説』、『ロマンシング サ・ガ』シリーズ、
『サガ フロンティア』等、数多くのゲーム作品の音楽を担当する。
2001年2月 フリーの作曲家として独立。
現在もゲーム作品を始め、舞台・TVアニメ等の劇伴、シンガーへの楽曲提供及びアレンジ、
各種プロデュース等、幅広い分野で活動中。
※本橋氏はスクウェア・エニックス、カプコン(ダレット時期含む)を経てチュンソフトに入社した
もう最初からイトケンさんありきで話を進めました。
社内での企画承認後ですね、本人に言ったのは。
時々一緒に飲みに行っていたので、飲みの場で資料見せたらイトケンさんの名前がすでに載っている……というね。
試作版にもイトケンさんの音楽を勝手にひっぱってきて入れてたんですが、もちろんこのままでは使えないので「というわけでイトケンさん新しく書いて」ってお願いしました(笑)
本当に忙しい中やってくださいました。「パズドラで忙しい」ってずっと言っていましたが、
レベルが高いこと、高いこと。やっぱイトケンさんは違うなと。
―――たしかにそうですよね!パズドラの開発とまったく同じ時期ですもんね。
本橋氏:
そうなんですよ。あの時期は寝てなかったみたいですね。
ファンタジーでやるならイトケンさんだな!というのと、やっぱり海外での評価も高くて現在でもコンサート活動を頻繁に行われているので、海外で一緒に戦って行ける方ということでイトケンさんにお願いしました。
個人的にも大ファンですし、仲良くもさせていただいてますし。好きこそものの上手なれです。
―――海外でのプロモーションはゲームの内容やDeNAさんの実績から考えると比較的うまく行きそうなイメージがありますが、逆に国内のプロモーションに苦戦するのではないかと感じています。そのあたりはいかがでしょうか?
本橋氏:
日本のスマホのネイティブアプリユーザーの第三プラットフォーム嫌いが顕著なことは痛感しています。ストアを見ていればレビューで目につきますし。
ただ、もうそれも想定に入れて見直しているというか、国内に関してはある程度長尺で見ていますので、2か月、3か月でぽーんと伸びるという形では考えていないです。
―――では、ある程度時間をかけてコンテンツを育てていくというイメージになりますか。
本橋氏:
市況性だけ考えるとおそらく何もできなくなってしまうので、私たちの本来の役目である、ちゃんとゲームを作って、運営して、という2つを徹底して守ろうと考えています。
ごちゃごちゃと、どんな理屈かさねても、やることやる!には変わりないですし。
あとは、海外まで広げたときに、どこの国だろうがみんな、おもしろいと思うというか、突然なんか脳汁が出る瞬間というか、そのポイントが国によってどう違うのかなっていうのを見ていかないといけないかなと考えております。
ローカライズじゃなくて、カルチャライズですね。また、それが楽しみだったりもします。
―――では動き次第では国ごとに内容を変えるということも?
本橋氏:
まず、ローンチ段階では、ゲームとしての最大公約数をとったつもりなので、よっぽどのことがない限り変えません。
ただ、運営に入ってからユーザーさんの反応を見て、運営を分ける可能性は想定の中に入っていますね。
―――なるほど、いずれにせよ、国内版のリリース後は海外版の勝負になりますね!本日はありがとうございました!
ブレード&マジック
http://www.spike-chunsoft.co.jp/blade-magic/index.html