ライター高野京介がインディーデベロッパーを紹介するシリーズ。
今回はサイケデリックなまでに刺激的なドット絵作品を創り続ける鬼才、m7kenjiを紹介したい。代表作はスマホゲーム「BUGTRONICA(バグトロニカ)」。
目次
多岐にわたるm7kenji氏の活動〜VJやグッズ展開も
VJ/デザイナー/プログラマーとして八面六臂の活躍を繰り広げるm7kenjiさん。1986年生まれ。最後のファミコン世代として強烈なドット絵の映像表現が魅力だ。
その活動はスマホゲームだけじゃなく、チップチューンアーティストTORIENA等のMVでも遺憾なく才能を炸裂させている。
言葉より画像を見れば一撃で伝わる。2018年今なお、むしろ今だからこそ強烈に映える極彩色。けっして懐古主義に陥らない攻撃的なビジュアルがクールだ。
個展やグッズ展開なども展開
スタイリッシュでかわいらしいドット絵にはファッション的な評価も高い。個展も開催されており、僕も2016年の「インターネット闇市」で出品していたときはステッカーかなにかを頂いた気がする。
インターネットヤミ市、CD-Rでデータを買っただけなのにバグトロニカのステッカー頂いた。作者の方に愛を伝えることができた。 pic.twitter.com/mSAf71AdrD
— 高野京介 (@takanomerde) 2016年10月17日
ひとしきりm7kenjiさんのドット絵の魅力を説明したところで現在スマートフォンで遊べるm7kenji作品を何作品か紹介していこう。
バグだらけの世界の冒険が奇妙な感動を呼ぶ「バグトロニカ」
BUGTRONICAはスマートフォン向けのアプリでバグった世界を徘徊するドット絵の2D横スクロールアクション。
ある日、少年の目の前は突然バグだらけになってしまう。懐かしい、でもおかしい事だらけのバグだらけの世界を歩きバグ(虫)達を撃退していく。
バグったドット絵の世界は、悪夢のような、サイケデリックな雰囲気だ。どうしてか懐かしくもある。狂ったBGMすら、ファミコン時代を思い出すし、同時にクラブミュージックのようでもある。
わかりやすく喩えると「MOTHER2」の狂った幻覚の町、ムーンサイドのようだし、大ヒットしたインディーゲーム「ゆめにっき」との近似性を感じる人もいるだろう。
双方僕も大好きな作品だが、決して模倣や雰囲気ゲーで終わらない、妙な感動を呼ぶインタラクションが「バグトロニカ」の魅力であり醍醐味なのだ。
冒険の途中、少年は不思議な世界でおかしなキャラクター達に出会う。花屋さん、ストリートミュージシャン、アナログTV、タコ…出会うキャラはプレイする度にランダムだ。
彼らは意味があるのかないのか深いのかテキトーなのか、哲学的で詩的な事をしゃべる。彼らとのやりとり、セリフの数々が忘れられない冒険となっていく。
冒険を進めると世界は変容を続ける。少しずつ武器が増え、バグった風景も変化し、色が増え音楽も重なっていく。簡単なゲーム性だが、冒険の最後に待ち受けるボスにだけは苦戦する。だからこそ、エンディングには心にこびりつく独自性のある感動を呼ぶだろう。
そして、ネタバレになるかもしれないが、エンディングの後こそが本当の冒険のはじまりだ。自分との対話になっていくような、妙なトリップ感は唯一無二だろう。
ハマる人はハマるだろうし、ダメな人は一生ダメかもしれない。だが、2013年の作品でありながら(僕がスマホゲームのレビューをはじめた年でもある)、今なお自分のマイ・ベスト・ゲームの一つである作品だ。
誰でもドット絵をつくれる、効果音の気持ちよさが出色の出来のピクセルエディタ「PixelTweet」
「PixelTweet」は、誰でも簡単につくれることを目標とした、気配りあふれるドット絵エディタ。
モノクロ4色のドット絵を機能を出来る限りシンプルにすることで、誰でもドット絵を打ち、メラロールに保存したりTwitterにツイートできるようなシンプルな設計を目指している。
マスコットキャラクターも可愛らしい。m7kenji氏だけあって、効果音も気持ちよく、触ってるだけで楽しい。
機能を最低限までしぼった事について、m7kenji氏は「迷いが生じないように工程を一本道にしたかった」と語っている。
「初めての人はまず形を作って欲しい。丸でも四角でもいいし、星はちょっと難しいかもしれないけどチャレンジするのも面白い。」とも。
以下の画像は、m7kenji氏がワークショップでドット絵を作るワークショップで配られた資料である。
「ドット絵じゃなくてもいいし何かを作り出すきっかけになれたら嬉しい」
という、作者の愛と気配りを感じる素晴らしいアプリだ。僕は敬意を表する。
m7kenji氏の懐かしくも未来感ある攻撃的なビジュアルと叙情的で詩的なテキストを待ち続けたい
「マザー2」や「星のカービィ」への愛を隠さないm7kenjiさん。そのドット絵は、クラブカルチャーへの親和性もあいなって、一撃で脳裏に焼き付くともいうべき強烈なビジュアルが最大の特徴だろう。
懐かしくも同時に未来的な、どこにもない景色がゲーム内に広がる。それは、ドット絵や8bitのサウンドが同時に、体験者の想像力と接合していくからだろう。
そして詩的なるストーリーテリングもまた魅力だ。まるでゲームじゃなく、現実の認識をも変容させるようなドラッギーな体験をもたらす。そういう意味で、m7kenji氏の作風はどこまでもパンクを感じさせる。
m7kenji氏の作品、いつだって待ちまくりたい。ファンにいつづけたいデベロッパーがいる。ゲームをレビューするものとして、これほど幸福な事はないぜ。