ライター高野京介がインディーデベロッパーを紹介するシリーズ。
今回は全世界で100万ダウンロードされ絶賛された「TIME LOCKER」の作者、sotaro otsuka氏を紹介したい。
日本インディーゲームの表彰式『INDIE STREAM AWARD 2016』大賞であるBEST OF INDIE STREAMを受賞。
Apple選出による2016年を代表するベストゲーム“Best of 2016”次点を個人開発のゲームながら受賞。その魅力に迫りたい。
目次
スマホゲームの歴史に残る名作シューティング「TIME LOCKER(タイムロッカー)
アプリゲット史上、数万本のスマホアプリレビューで、自分がはじめて満点をつけたタイトル。それが本作「TIME LOCKER」(タイムロッカー)である。
文句なし。最高のスマホゲー。一つの金字塔と呼びたい。自分はそう絶賛した。
中毒性、爽快感、オリジナリティ。センス。やり込み要素、サウンド、グラフィック、自分はすべてに満足した。
もしかしてスクリーンショットのポリゴンだけでは、伝わりづらいかもしれない。だが、プレイすると作者のセンス・オブ・ワンダーに気づくはずだ。それをクドイほど語り倒していこう。
あなたが止まれば、時間も止まる
「TIME LOCKER(タイムロッカー)」は、時間をあやつる不思議なシューティングゲームだ。
「あなたが止まれば、時間も止まる」そんな不思議なキャッチコピーの通り、指の速度と時間の速度が連動し、指を止めれば敵も止まるため、シューティングゲームでありながら、アクションゲーム下手な人でも遊べる。
これが面白い。映画「マトリックス」でも有名な「バレットタイム」のように、時
間が止まり、敵の猛攻を神がかった超反応で避け、反撃する、絶対的な快楽がある。
スマホのシューティングゲーム、アクションでは難しい、敵弾の回避や敵や地形の予測など、詰将棋やパズルのような戦略性が指一本で簡単に楽しめるのだ。
これにより、シューティングゲームでありながら、パズルのような革新的体験をもたらした。反射神経や繊細な指さばきがなくても爽快感を味わえる敷居の低さもすごい。
だが、それだけではない。まだまだある本作の魅力を再び語り尽くしたい。
インフレを無限に続ける火力〜シューティングの絶対的快楽
パワーアップしまくった時の無双感とも呼ぶべき、万能感が本作の大きな魅力だ。
本作は強化アイテムを重ねて取ることで、攻撃を無限にパワーアップさせることができる。ミサイルやビーム、地雷、ガードビットなどを何十発も同時に放てるため、攻撃力の上限がほぼない。
本作のマップ、及び敵キャラクター、強化アイテムはランダムに配置されるため、毎回難易度が大きく変わってくる。まるでローグライクゲームのように斬新なプレイを重ねることができるのだ。
センスあるローポリゴンとかわいらしいキャラクター達
動物をモチーフにしたローポリのモデルが非常にかわいらしい。レトロながらもスタイリッシュであり、インパクトは絶大だ。単色の組み合わせでビジュアルを表現し、青はアイテム、オレンジはボスキャラクターと色でキャラクターの区別化に成功している。
現在ではアップデートを重ね、ことなる性能を持った80種類以上のキャラクターが用意されている。その多くは周回プレイし、スコアを獲得していくことで無料でアンロック可能。有料のモデルも試遊でき、圧倒的高性能とアクの強いキャラに課金してしまうユーザーも少なくないだろう(僕もそうである)。
奇妙な効果音〜BGMをも必要としない気持ちよさ。
声を加工したという効果音の気持ちよさはどうだ。移動時、攻撃時など、ありとあらゆる効果音がテンポ、音色、メロディともに気持ち良い。
敵を殲滅する効果音は、まるで良質なエレクトロニカ・ミュージックのように聞こえる。ローポリゴンの白背景という、一見殺伐に見えるグラフィックと完全にマッチしている。BGMさえいらないと思える気持ちよさ、一度は堪能してほしい。
操作性の高さ〜指一本で遊べる本格シューティング
こだわりぬかれた操作性も魅力の一つだ。あえて斜め移動を排し、快適なスライド操作を提供することに成功している。もちろん、攻撃は移動と同時にオートで行われるため、実質指一本で遊べる。
ステージは横に広がりがあり、アイテムを探すような探索要素もある。敵を倒すだけではなく、ルート選びや回避も生き延びるためには重要だ。ハイスコアをとればとるほどキャラや武器がアンロックされ、集めたコインで初期状態から武器をもってプレイ可能。
なお、横移動しているときに視界の外から思わぬ攻撃を食らって凡ミスすることが多いため気をつけよう。何度痛い目をみたことか。
「自分が作りたいものを作る」インディーならではの徹底したこだわり
作者のsotaro otsuka氏は、会社でソーシャルゲームを開発するかたわら、個人開発でゲームを制作していた。だが、会社を辞めて開発に専念し、たった一人で8ヶ月で「TIME LOCKER」を制作したという。
「独立するからには絶対に成功しなければならなかった」そう語るotsuka氏のTwitterやインタビューからは、制作への熱い想い(それは、照れずに言えば愛だ)をひしひしと感じる。「自分が1番のプレイヤーですから。自分を裏切れません」※1という言葉には高いハードルを課していることが伺える。だが、決してひとりよがりにならない、爽快感はどうやって生まれたのか。
「自分が好きなものを作ったときに、良いものが作れると思う」そう語るotsuka氏は、”ゲームをしない奥さん”にテストプレイしてもらい、意見を聞きながら、「徹底したユーザー目線」で作品のビルドを続けていったという。そこにはソーシャルゲームを開発していた会社員時代の経験も活かされていた、とも。※2
そして、彼は作品作りについてこう呟いていた。勇気の出る言葉だ。
ゲームを完成までこぎつける秘訣は、ゲーム性の核になるモックに時間をかけることだと思う!
ここだけは妥協せずに何度でも作り直したほうがいい。
『こんなおもしろいゲームを完成させないとマジでもったいない』という気持ちがキツい作業の推進力になる。
見た目や世界観で自分をごまかすな!— otsuka🤓 (@otsuka_game) 2017年5月7日
現在、otsuka氏は新作スマホゲームを開発中だという。それがどのようなゲームなのかはいまだ語られていない。だが、「銃火器でバケモノの群れをバリバリ殺しまくる体験の再現を作りたいだけ」という発言もあり、またまた爽快感溢れるヤバイゲームが生まれる確信しかない。もちろん全力で追っかけて紹介したい。
僕は本作を何百回と遊べると言ったが、何度もリプレイしたくなってしまう中毒性は2018年、今もって何も色あせない。
敵を倒す。無限にパワーアップする。そのスピード感。爽快感。
otsuka氏は「Shooty Skies」「SUPERHOT」「クロッシーロード」からの影響を公言して隠さない※2。原作への愛と敬意、確固たる己を持っているからゆえだろう。安易な模倣などでは決してない独自性があると僕は断言する。
やりこみ要素、爽快感、気軽さ。センス。スピード感。すべてを兼ねた奇跡のようなシューティングゲームだ。
こんな傑作が、個人開発でつくられ、広告費用もかけず、世界にヒットした。
その事実は、ただただ痛快でしかない。
控えめに言う。
やっぱり満点。
クソ最高のゲームをありがとう。
※1TIME LOCKERは妻の感情でできている-madewithunity.jp より
※2『Time Locker』製作者インタビュー。「人間は、好きなものしか作れない」から独立した男 -ゲームキャスト より