独特の形状を持つ航空母艦。
重心の高すぎる構造で、急旋回などで大きく傾いてしまう。
それが―――
軽空母「龍驤」
構造の不備を残しながらも戦い続けた歴戦の空母の結末を語ろう。
ウチ…ちょっち…疲れたわ……ごめん… by龍驤
軽空母「龍驤」
龍驤は、旧日本海軍の航空母艦。
外観が特徴的で、小型の船体に収まりきらないほど巨大な上部構造物が乗っている形状。
正面から見ると、下部に見える細身の船体に二段構造の格納庫と左右に突き出た高角砲の基部が逆三角形に見える。
かなり独特の形状の艦船になっている。
無理な設計のために重心が非常に高くなっており、急旋回・波浪などで飛行甲板のエレベーターから水平線が見えるほど傾斜したという逸話がある程だ。
実際に、千葉県館山沖の公試において、全速航行時に舵を切った際に大傾斜を起こしたとされる。
1938年8月には、運用上の不便点が多いため、当時の艦長が幾つか要望を提出しているが、復元力の問題もあってか実現はされなかった。
その時だされた要望は―――
「飛行甲板の25m延長」
「後部エレベーターを7.79m×10.75mから12m程度に拡大」
実現していたら外観が変わりそうな甲板延長なんてのもあったw
ちなみに元々は10,000t未満の水上機母艦を新造する計画だったものを、海軍司令部からの要望で航空母艦として建造することになったので、無理矢理増設した部分が多いことから、この独特の形状になってしまったようだ。
その最後―――
1942年8月7日、アメリカ軍はウォッチタワー作戦を発動した。
海兵隊によるガダルカナル島上陸作戦が決行される。
即座に連合艦隊は、奪回を決断し、同11日に前進部隊が本土から出撃した。
続く16日にはトラック進出のために第一航空戦隊が桂島泊地を出撃。
龍驤は第一航空戦隊3番艦となった。
18日に第4駆逐隊(嵐、萩風、陽炎、谷風、浦風、浜風)が陸軍兵約900名をガダルカナル島への揚陸に成功。
20日、南雲機動部隊はアメリカ軍機動部隊との決戦「第二次ソロモン海戦」にのぞむ。
そして、運命の8月24日―――
南雲司令長官は増援部隊上陸支援の為、龍驤と利根型重巡洋艦利根、第16駆逐隊(天津風、時津風)を艦隊より分割させてガダルカナル攻撃に南下させた。
龍驤の航空隊がガダルカナル島の飛行場を攻撃。
アメリカ軍機動部隊の注意をひきつけているうちに第三艦隊主力(翔鶴、瑞鶴)がアメリカ軍機動部隊を攻撃するという囮作戦だった。
午前2時、龍驤、利根、天津風、時津風からなる「第三艦隊支隊」は本隊から分離すると、作戦通り南下してガダルカナル方面へ。
午前7時、アメリカ軍飛行艇に触接されたが上空警戒機で追い払うことに成功。
『午前中に敵機動部隊を発見せば第一法(敵機動部隊攻撃)に転ず』
との指示だったが、本隊より発見の通知はなかった為、第二法に従い龍驤はガダルカナル島攻撃の準備を開始する。
10時20分、龍驤から第一次攻撃隊が発進。
10時48分には、第二次攻撃隊を発艦。
攻撃隊はガダルカナル島飛行場への爆撃を実施する。
一方、第三艦隊支隊も索敵のB-17爆撃機に発見されていた。
空母エンタープライズの索敵機も「小型空母1隻、重巡洋艦1隻、駆逐艦3隻」を発見したと報告していた。
その頃、津風駆逐艦長「原為一天」は、龍驤の対応の遅さに苛立ち、龍驤に向けて発光信号を送ったという。
『失礼ながら貴艦は飛行機準備、発進攻撃共に手ぬるし、国家のため一層御奮闘を祈る。怒るなよ』
この物言いには理由があった、龍驤副長「貴志中佐」に向けたもので、彼らは海軍兵学校の同期だったのだ。
これに対して龍驤からも応答があったという。
『有難うお互いにしっかりやろう』
これも、同期ならではの受け答えだ。
エスピリトゥサント島から飛び立ったB-17による空襲、その第一波は大きな被害なく過ぎ去った。
アメリカ海軍の情報部機密資料では、エンタープライズの第三雷撃中隊が、龍驤に対して雷撃するも命中弾なし、1機が零戦に撃墜された。
サラトガの攻撃部隊の空襲が、龍驤に複数の爆弾、そして魚雷を命中させたとある。
艦橋にも被弾しており、多数の将兵が死亡する被害を負っていた。
午後2時、魚雷1本が左舷中部付近へ命中。
これにより龍驤は大火災が発生し、航行不能に陥っている。
右舷に20度近く傾斜した状態になり、この状況は致命的と言えるものだった。
午後3時40分頃、再度B-17爆撃機の爆撃を受ける。
これによる被害はなかったものの、浸水が激しく他の艦による曳航も不能な状態。
午後4時40分、火災は鎮火するも艦内機関は全て使用不能と判断。
ついに―――
午後5時30分、龍驤の処分が命じられた。
午後6時、龍驤はガダルカナル島北方の海域(南緯6度10分 東経160度50分)で艦尾より沈没していった。
副長以下121名が戦死、残る人員は利根、天津風、時津風に救助された。
この第二次ソロモン海戦は、貴重な空母である龍驤を失いつつ、思うような戦果をあげられず旧日本海軍は敗北を喫している。
大海に還った魂に敬礼―――