NHN PlayArt株式会社から5月にリリースされ、サービス開始から14日で50万DLを突破した『はらぺこ勇者と星の女神』。
本作は、ゆる~い世界観の中で、出口までの道筋を考えながらブロックを消していくのが勝利の決め手となる「ゆるムズ」系パズルRPG。
今回はそんな『はらぺこ勇者と星の女神』のプロデューサー・瓜生 貴士氏と、ディレクター・林 智之氏に、開発秘話など様々なお話を伺ってきました!
目次
仕事の空き時間で作られたオリジナルのパズルゲーム
―今日はよろしくお願いします!さっそくですが、『はらぺこ勇者と星の女神(以下、はらぺこ勇者)』の開発経緯を教えていただけますか?
瓜生氏:
一昨年の11月くらいに、ディレクターの林の方から企画書2枚くらいでこんなゲームを作りたい、と提案がありまして。
丁度ウェブでソーシャルゲームが流行っている中で、次第にいくつかのネイティブアプリが伸びてきていて後に続きたいという話を2人でしていたんです。
ただ弊社自体、オリジナルのパズルゲームを作った経験があまり無かったので、なかなか社内でも判断がつきづらい状況だったのですが、僕の一存で色々言う前にまずはやってみようということで、追加で二人アサインして作りはじめたのがきっかけです。
林氏:
そこからみんな他の仕事がある中で空き時間で作って、プレイしてみたらそれが面白くて。
瓜生氏:
社内の人間に少しずつ見せていったところ、「面白いもの作っているぞ」と評判になりまして、それならしっかりプレゼンできる形にしようと約3週間でプロトタイプを作りました。それが正式に認められて去年の1月くらいに今のコアメンバーが揃い、プロジェクト化しました。
―今回、「ゆるムズ系」というのが一つのコンセプトになっているかと思うのですが、そのアイディアはどこから考えられたのでしょうか。
瓜生氏:
ここ1、2年流行っている、1分間で競い合うシステムのパズルゲームが僕自身、下手で出来ないんですよ。指がつってしまって長続きしないので、もう少しのんびりプレイできるゲームというのがまず1つのテーマとしてありました。電車の中で途中でやめても、その後またゆっくり続きを進められるようなものを作りたいな、と。
あとは、家庭用ゲーム機を遊んできた世代からすると、カードが戦ったり、数字遊びをするようなシステムだと遊びの広がりが少ないな、というジレンマもあって、誰が見ても僕らのゲームだと分かる新しいものを作りたいという想いもありました。
―パズルとRPGというジャンルについては当初からコンセプトの中に組み込まれていたのですか?
瓜生氏:
はい。毎回パズルをすることによって、そこに成長性であるとか、次に進んでいけるような継続的な遊びを作りたいというのがありました。
あとは時間をかけてゆっくり遊べるゲームとして代表的なのが『Candy Crash』だと思うのですが、『Candy Crash』を楽しんでいるユーザーさんが興味を持ってくれるようなものにしたいという想いがありましたね。
議論と試行錯誤を重ねることで生まれた爽快感
―パズル部分で、10コンボや20コンボ繋ぐことができるとかなりの爽快感がありますが、演出などでこだわっている部分はあるのでしょうか?
林氏:
実は、あのパズルのコンボは途中で入れた仕様なんですよ。
開発当初は今よりもずっとストイックなゲームになっていて、面白いけどなかなかブレイクしそうにないな、と。
ゲームとしては成り立っているのはもちろん、気持ち良い要素を入れないといけない。さらに極端にいえば、ただ1個消しただけでも気持ち良くなくてはいけない、という原点にまで戻ってメンバー全員で議論を重ねた結果、ブロックをつなげばつなげるほどコンボしたり、その分を次のターンに引き継ぐことができる要素を追加していったんです。
死にながら攻略していくことの面白さ
―『はらぺこ勇者』をプレイしてみて感じたのは、死んでも死んでもアイテムやコインが減ったりするようなデメリットが無いので、どんどん繰り返しプレイしてしまうんですよね。敵にやられると悔しくて「次はあそこまでは超えてやるぞ」という気持ちが湧いてくるというか。
林氏:
最近は「クリアすることだけがご褒美」みたいなゲームが増えているな、と感じていて。昔からゲームを遊んでいると「死んで覚えていく楽しさ」が体に染みついているんです。ゲームって死にながら攻略していくのが楽しいよね、と。
死ぬとアイテムが無くなる、などといったペナルティも色々と試しましたが、今のレベルだけ元に戻るという難易度がちょうどプレイしてみて気持ち良いレベル感に仕上がったんです。
―試行錯誤をされた中での結果なのですね!最近は一度死ぬと有料ポイントを使えばコンティニューできるゲームが多いですが。
瓜生氏:
コンティニューについても、実はリリース直前まで搭載していました。
ですがやはり死んだ時の悔しさと、クリアできた時の喜びや気持ち良さとのバランスを考えて様々なケースを試した結果、結局コンティニューは無い方が良い、という結論に至ったんです。
ランキングに入っても、どうせ課金してトップに入ったんだろうなと感じるよりも、みんな本当に苦労してランクインしたんだな、というのを全員が共有意識として持っている方が大事ではないかと思いまして。
―確かにコンティニューが搭載されていたら、今ほどのクリアできた時の達成感は無いかもしれないですね…!
瓜生氏:
4、5回チャレンジして、なんとかボスにたどり着いて、絶対死ねない!という緊張感がさらに操作をミスらせるっていう。(笑)
―また、1回1回が命がけのチャレンジの中で、「棺桶システム」はかなり助かります。
瓜生氏:
フレンドとつながっているということをあまりシステマチックに表現したくなかったんですね。すべてにおいて共通して言えるんですが。
死んだ旅人の棺桶に祈りをささげたり、町に訪れてきた旅人とフレンドになったりも、すべてゲームの世界観に合うようにシステムも組み込んでいきました。
ファミコン世代の制作陣が一番作りたい世界観を実現
―勇者や酒場、道具屋といった昔ながらのRPGらしい世界観やグラフィックにした理由はあるんでしょうか?
瓜生氏:
まぁ作っているのが皆おっさんなので。(笑)自分達が一番作りたいものを作ろうよ、と。
今2Dのゲームが全盛の時代で、3Dで表現したいとなった時に、リアル系のグラフィックで勝負をしていくよりは、人数や期間などの制約もある中で最も我々の真価を発揮できて、なおかつ自分たちが一番楽しめるものをということで、現在のデザインにたどり着きました。
林氏:
ドット絵といっても、8ドットと16ドットとそれぞれやっぱり少しずつ違いますし、いかにリッチなドット絵にするか、現在のデザインラインを出すだけで、およそ4~5か月はかかりました。ボツになった3Dモデルはすごい量あります。たぶん完成したものの倍以上はあるかと思います。(笑)
ファミコンでは縦横16ドット、スーファミでは縦横32ドットでキャラが描かれていますが『はらぺこ勇者』にとってはどれが一番良いのか考えた時にもう描いてみるしかなく、ドット単位の調整をしながら終わりがないくらいテストを繰り返しましたね。
瓜生氏:
しかも、そのまま何の加工もないドット絵のキャラクターをぼんと画面に出したところ、全然シズル感というか、人を惹きつけるような味っていうのが無かったんです。それで、よーく見ると分かると思うのですが、実はかなり描きこまれていてピクセルに影がついているんです。このデザインの味や奥行きを出すのはとても難しいと思います。
―この女神たちのキャラクターのゆるさも魅力的ですよね。
瓜生氏:
日本のいわゆるRPGのストーリーって、意外とメッセージ性が強いものが多いと思うんですよね。例えばですが皆で協力して戦おう、とか、親を大事にしなさい、みたいな。
ただ、僕らのプロジェクトでは、メッセージ性は一切出さないようにしようと最初から決めていました。人に何か伝えるというよりは、うっかり読み飛ばしてしまっても全然問題ない、場面場面を切り取ってちょっとクスッと笑えるものだったり、ゲームを進行していく手助けになるようなものに留めています。
ドーナツの秘密
―満腹度の回復アイテムをドーナツにしたのは何か理由があるのでしょうか?
瓜生氏:
はじめからドーナツという案はあったんですが、世界展開を考えたときに、日本を含めて世界中でみんなが好きな美味しいものといったら、ドーナツなんじゃないか、と。『Candy Crash』といったゲームをみても、外国人は甘いものが相当好きだろうし、よく考えたらエルヴィス・プレスリーだってドーナツの食べ過ぎで亡くなったとも言われているし。さらに、丁度日本でも某コンビニがドーナツを店頭で販売し始めて、あ、絶対ドーナツ来るな、と。(笑)
―笑。確かに洋画なんかでもよくドーナツを食べているシーン出てきますね!
林氏:
実は…ドーナツを使った誰にも言っていない理由があるんですけど…
企画を作ったのが、ミスタードーナッツのお店の中だったんですよ。それで食べ物っていったらもうドーナツしかないというのがあって。(笑)
―そんな裏事情があったとは!驚きです!(笑)
先ほど世界展開を考えた時、というお話がありましたが、カルチャライズなどはせずこのままリリースされているのでしょうか?
瓜生氏:
はい。このまま出しています。担当していただいた翻訳者の方もノリノリで相当緩い感じになっています。(笑)ただ、日本でしか通じないゆるい部分の訳は、現地に合わせてローカライズしています。
例えばゲーム内に登場する、「職業の書」を扱う街の住人・リックとルートの名前をつなげてみる部分とか…
―リックとルート… ああ~~~~!
瓜生氏:
英語版では、彼らの名前はリンクとエディンになっています。
―隅々まで海外のプレイヤーもクスっと笑えるようにしてあるんですね…!
瓜生氏:
愛情のあるおふざけを至る所に散りばめています。(笑)
昔ながらのRPG要素は残しつつも新しさを提供
―運営にあたっては気を付けていることなどはありますか?
瓜生氏:
例えば、プレイヤーが色んなサイトに行って、様々な情報やデータを見ながらでないと進めなかったり、ある情報を知っている特定の人だけが得するようなゲームにはしたくないと考えています。我々があまり手を入れなくても、常にすべてのユーザーに平等な状況を提供していくことを重視しています。
日々の運営に多くの時間をとるというよりは、現状よりもっと多くのコンテンツを継続的に提供できるように新たなものを作っていくことに力を注ぎたいですね。
―はじめの方でコンティニューやパズルについて議論したというお話がありましたが、その他に開発初期からゲーム内容などで大きく変わったことはありますか?
瓜生氏:
当初とは色々とがらりと変わっています。もともとリリースは去年の秋を予定していたのですが、目前にしてうまくまとまらず、一旦開発者全員にパソコンから離れるように言って、とにかく毎日机の前に集まってどうしたら面白くなるのか徹底的に議論したことがあったんです。そこから上に頼み込んで開発期間を延ばしてもらって、5月についにリリースできました。
例えば、街から指でスワイプすることで各ダンジョンに進めますが、去年の秋までは世界マップがあったんです。海の上に島があり、ところどころに3Dの建物が建っていて、ルートを辿りながらどんどん攻め落としていく形でした。ただ、これが拡張性も無い上、すごく重くて。
よく考えると、世界マップは家庭用ゲーム機からの一つの流れで、今のスマートフォンにおけるプレイスタイルには合っていなかったんです。それなら、今のRPGにおけるマップはどんなものが良いのか、ということで、現状のフリックして展開していく形になりました。
瓜生氏:
もう一つ、ダンジョンも大きく変わっています。ダンジョンでは、下へ下へ深く潜ることがゲームの進行や報酬などすべてに結びついているのですが、去年の秋まではこの他にも色んな指標が強さの基準としてありました。敵をすべて倒せば大きな報酬が出たり、画面上のブロックをどれくらいの数消したか、とか。
それでどうやって遊べば良いかよく分からない、となってしまったので、価値観を深く潜ることだけに統一することにしたんです。
―シンプルだからこそ、逆に目標が明確になってやり込めるのかもしれないですね!
最後に今後の展望をお聞かせいただけますか。
瓜生氏:
ゲーム内容としては、カジュアル~ヘビーユーザーまで、より広い層の方々が楽しく遊べるように、ということが一つの目標としてあるので、出来るだけその間口を広げられるように調整していこうと思います。
『はらぺこ勇者』はストーリー完結の予定もあるので、そこまで安定して楽しいコンテンツをお届けできるように頑張っていきたいと思います。
林氏:
『はらぺこ勇者』は昔ながらのゲームの文法はしっかり守りながら、その上で新しいゲームとして提案しました。
そういう意味では他で流行っているから、という理由で運営しながら別の要素を入れていくのではなく、このゲームが本当にあるべき姿をしっかり保っていきながら、ユーザーさんに「どうだ、こんなのできたぞ」というように見せ続けていきたいなぁと思っています。
―今回はありがとうございました!