「にほんはぐんまけんになりました」
シュールな雰囲気と中毒性のあるゲーム性で大ヒットしている「ぐんまのやぼう」。開発者は『大手メーカーが作らない「B級」iPhoneゲームが売れる50の理由』(秀和システム刊)などの書籍も執筆してきたRucKyGAMESさん。
iPhoneやAndroidというスマートフォンプラットフォームで、これまで圧倒的な数のゲームをリリースしてきたデベロッパーだ。今回、アプリ★ゲット編集部は「ぐんまのやぼう」のヒットの秘訣とともに、ユル系B級ゲームで収益をあげる方法などについてインタビューしてきた。
自ら「ネオニート」を自称するRucKyGAMESさん。インタビューでもそのユルい個性を光らせていた。だが、話の中から浮かび上がってくるのは、開発が容易なシンプルなゲームをいかに広告収入につなげるかに関する鋭い洞察だ。さらにゲームのアイデアが思い付いたら即実行というフットワークの軽さ。大手デベロッパーにはマネの出来ないアプリ開発の方法がそこから明らかになった。
目次
1、予想外だった「ぐんまのやぼう」の大ヒット
-「ぐんまのやぼう」はAndroidでもiPhoneでもヒットしていますが、正直なところ予想していましたか?
最初はそんなにヒットすると思って作ってなかったので、なんでこんなに流行っているのか正直良く分からないです(笑)。反響は今までにないくらい大きく、マーケットのユーザーレビューでも好意的に受け取られています。
-ダウンロード数はどれくらいですか?
Androidでのダウンロード数は15万くらいで、iPhoneと合わせると、合計30万ダウンロードを超えましたね。(2012年5月現在)
2、これまでに100本以上のアプリをリリース。「ぐんまのやぼう」に至るまでの長い道のり
-RucKyGAMESさんは「ぐんまのやぼう」以前からゲームの開発を行なっていますよね。開発はすべて個人で行なっていますか?
そうですね。基本的には自分一人で企画とプログラムを行なっています。グラッフィックは別の方に頼んでいますので、RucKyGAMESは二人組みのユニットです。ただ「ぐんまのやぼう」に関しては絵やグラフィックも全部一人で作りました。
-ゲーム開発の経験はどこで積まれたのですか?
前職はコンシューマゲーム会社のサラリーマンをしていました。実はあの「なめこ」のビーワークスさんでして…。
-えっ!?あの「なめこ」の会社で働いていたのですか?
そうです。今は辞めて独立していますが、ビーワークスさんではニンテンドーDSやWiiウェアなどのゲーム開発していました。そして「なめこ」などのiPhoneでの開発が始まるまえに辞めて独立しました。だから「おさわり探偵なめこ栽培キット」には関わってないですね。若干「ぐんまのやぼう」とゲームシステムが似ていますが。
-スマートフォンのゲーム開発で独立した理由は何ですか?
もともと個人でフラッシュゲームなどを作っていました。その流れで携帯機などのコンシューマでも自分のゲームをずっと作りたかったんです。最初はXbox360でゲームをリリースしようと思っていたので、個人制作者向けのXboxインディーズが日本で始まるを待っていたんです。
絵やプログラムは準備していたんですけど、Xboxインディーズのサービスが始まるのが遅れたので、その間、暇だから何しようかと。そう考えていたらiPhoneの人気が出てきたので、もうスマホで開発すればいいやと思い、現在に至ります。
-最初のゲームは、iOSでリリースしたのですか?
はい。まずiPod touchを買って、Macを買って、ネットや本を見て勉強して作りました。最初にリリースしたのは「i刺身LITE」っていう刺身の上にたんぽぽを乗っけていくだけのゲームです。
本当は最初に作ったゲームは「ColorPuzzle」という普通のパズルゲームだったんですけど、アップル側のアプリの審査に時間がかかって暇になったので無料アプリを先に出しちゃえって思って勢いで作ったんですよね。
-ものすごくフットワークが軽いんですね(笑)。時間が余ったからアプリを作るというのは。
「刺身」はもう絵をつくってあとは乗っけるだけですね。本当に2、3時間でできちゃったので。
-いままでiOSやAndroidでどのくらいの量のゲームを作ったのですか?
iPhoneが90くらいですね。
-90!それは大量ですね!
そうです。Androidが20くらいなので合計で100本は超えてますね。もう数だけ多いだけで、クオリティは高くないやつもチラホラと。
-量を作ることにこだわっているのですか?
そうですね。まずは質より量。数を多く出したらどれかヒットするかなって思ってやりました。実際には見向きもされないやつもありますが(笑)。
-1本のアプリにどれくらい時間をかけていますか?
短いのは2-3日、長くても12週間以内に終えるようにしています。じゃないともたない(笑)。飽きっぽいというか、あんまりゲームが複雑になると「だるいなー」って感じてしまう。だからドンドン機能を減らしていき、結果シンプルになっていきます。それが結果的にカジュアルなユーザーとうまくマッチしているのはありがたいことですね。
3、ダウンロードよりもPV数
-基本的に無料ゲームが多いですよね?独立されてからは、どうやって収益を出しているのですか?
iPhoneでは最初、有料アプリをリリースしていました。ですがトータルでみれば、無料アプリの広告収入のほうが安定してきたので、Androidではすべて無料でリリースしています。後、有料でリリースすると、ユーザーレビューで厳しいこと言われたりするのが怖くて。
-どんなゲームが収益があります?
「ぐんまのやぼう」以前は、ほとんどがiPhoneですが「ジオブロックス」という3マッチパズルゲームや、「i大富豪」などのカードゲームが収益の大半でした。「ぐんまのやぼう」がヒットしてからは、ダントツに売上がいいですね。
全体のアプリの広告収入の7から8割が「ぐんま」のおかげです。正直、びっくりしました。ただ基本的にたくさんアプリを出しても、一部のアプリの売上が8割くらいになりますね。売れたアプリで残りのアプリの制作費を回収するようなビジネスモデルです。
-カジュアルなゲームが大半ですが、それは収益を上げるために意識的に作っているのですか?
特に意識しているわけではないです。単に自分が苦労したくないだけというか(笑)。絵がたくさんあるRPGとかプログラムするのも大変ですよね。そういうゲームを作ろうとしても自分がもたないんです。だから結局、カジュアルよりのゲームになるというか。
-広告収入を上げる秘訣は何ですか?
あまりカジュアルなゲームはダウンロード数が伸びても、すぐユーザーが飽きちゃうので実際には広告収入につながりません。カジュアルになりすぎると、一見さんばかりになるので。
無料アプリで広告収入を上げるためには、ダウンロード数よりもアプリの起動回数やPV数を上げることが秘訣ですね。カジュアルなゲームを出したら、今度はしっかりしたゲームを出して、そちらのゲームへの広告でユーザーを流したりしています。
-それは上手い戦略ですね。それで他のゲームから別のゲームにユーザーは移動しますか?
いや、自分でもよく分かっていることなんですが、カジュアルなゲームをやる人は、結局、他のカジュアルなゲームに流れるのであまりうまく行きません。多少は、他のしっかりとしたゲームに流れてくれますが。
結局、ある程度やり込みできるゲームじゃないと広告収入も上がりませんね。「ぐんま」は放置系のゲームなので、最初からある程度、長く遊ばれることは分かっていました。
-サラリーマン時代と比べて、独立後の生活はどうですか?
生活は安定していますね。もともとそんなにお金を使わないですし。会社で働いている最中にも、一年間くらいiPhoneアプリを作って収入があったんですよね。それで、これなら独立しても生活できるだろうと思ったので独立しました。会社を辞めたら、「なめこ」がヒットしたんですが(笑)。
4、「最初はひまつぶし部分しか無かった!」きっかけは王様のブランチでインタビューを受けた少年の「知名度全国47位の群馬県から来ました」発言
-「ぐんまのやぼう」は47appというプロジェクトの一つだという話を聞きました。開発のきっかけについて詳しく教えていただけますか?
テレビ番組の「王様のブランチ」で群馬の知名度が最下位だという話がTwitterで盛り上がって、気づいたらみんなで各県のアプリを作って知名度上げようぜみたいな企画がスタートしたんです。プロジェクトを企画した@nashiko_さんは知り合いです。iPhoneユーザーのコミュニティつながりでいろんな人がプロジェクトに参加しています。
―ゲームのアイデアはどこから来たのですか?
実は最初は「ひまつぶし」の方のミニゲームだけだったのです。要するに「群馬県のことなんてみんな知らないだろう!」と思って遊ばせるのがテーマだったんですよね。
その後に日本地図のデータで使えるものが、たまたまあったので、じゃあ、これを使うか。だったら侵略させてみようかと。そしたら今度、本格的な戦略シミュレーションみたいなゲームになっていったんですよ。畑を育てて、国力上げて、他の県を侵略するような。
でも作るのがめんどくさいので、結局、現在のような形になったんです。でも逆にそれがユーザーには受け入れられたようでよかったです。他にも放置系のゲームが流行っていたので、分かりやすかったのもあります。
-「ぐんまのやぼう」のタイトルはどうって決めたのですか?
某タイトルにインスパイアを受けました。他のはしっくり来なかったのですが、「ぐんまのやぼう」はネタ的にもゲーム的にも全部伝えきった感じに仕上がりました。やはりタイトルは1番ユーザーが目にするので重要です。タイトルとアイコンでむしろ違和感を感じてほしい。「あれ!?」って思って、目に止めてほしい。
5、群馬県民以外は一切関わらせたくなかった
-UIも統一感があっていいですよね。手書き調で。
UIは遊びやすさを重視しています。UIはグラフィックの人に頼むことが多いのですが、「ぐんまのやぼう」は全部自分でやりました。というのは、自分は群馬県出身なんですが、もう一人の方は千葉県出身なんですよね。正直、群馬県以外の人には関わらせたくなかった(笑)。となると自分で描かなきゃいけないので、「だるいなー」って思いながら手書きで描きました。
-実際に上毛新聞やFM群馬に取り上げられ、地元でも話題になっていますよね。
そうですね。意外にも群馬の人からは好評です。「群馬県の知名度を上げてくれてありがとうございます」って感謝されるんですよね。むしろ「あっ怒られないんだ!」って安心しましたよ。
-そのうち群馬県から表彰されたりするかもしれませんね(笑)。
確かに1回くらい表彰されてみたいですね。大人になるとそういう機会なかなかないですから。
-思った以上に群馬県への愛があるんですね。
そうです。効果音も自分で入れてました。なんか「グンマー」っていう声が入れたくて、ノリの良い知り合いに頼もうかなと思っていたのですけど、その人は栃木出身でしたんですよね(笑)。だから「ぐんまーじゃないじゃん!」って思い、結局、自分の声を加工して使っています。
-まさに群馬県民100%のアプリですね。
純度100%です!でも次のアップデートはちょっとがんばりすぎて、純度が下がります。群馬県民度は下がりますが、大きなアップデートになります。今は世界征服まで遊べるのですが、次は宇宙を征服できます。スケールがでかくなっちゃって、惑星を征服するというゲームです。まあ宇宙っていっても、絵を描くのがやっぱり面倒くさくて、とても雑なんですけど。
6、コンプガチャを実装! 市町村をコンプして合併!
-あれ、下のメニューになんかガチャっていうのがありますね!
今、話題のコンプガチャを実装しました(笑)。実は、ここが1番がんばったところです。ここだけ見ると全然違うアプリに見えますが、コンプガチャを作ってみたくて、群馬県の市町村カードでゲットできるゲームにしました。平成の大合併以前の群馬の旧市町村を集めると、合併後の新しい市町村カードがもらえるというコンプガチャのシステムです。
-かなり大きなアップデートですね。これ単体でゲームになりそうですよ。
でも「ぐんまのやぼう」の中に入れたほうが目立つかなって思いまして。もちろんガチャは全て無料で、ゲーム内のポイントを使って遊べます。また日本を統一するとチケットがもらえて、スーパーガチャができる。
正直、このコンプガチャシステムを作るのは、本編より力を入れました。下のメニューもソーシャルゲームっぽくしましたし。とても疲れましたね。
-RuckyGAMESさんのアプリでここまでアップデートしているものは珍しいのでは?
確かに他はあんまりないですね。「ジオブロックス」は何度かモードを増やしましたが、こんなにがんばったアップデートは本当に初めてです。「ぐんまのやぼう」の反響がとても大きいですし、コンプガチャシステムを思い付いてしまったので、やらないわけにいけなく。さすがにもうネタは尽きてきました。だからこのアップデートが大きなアップデートの最後かな。
-では「ぐんまのやぼう」は次のアップデートで完成ということで?
「ぐんまのやぼう」は多分完成しますが、他の県の人から「うちの県でもやりたい!」という意見が多く寄せられるので、日本全国で遊べる別のアプリを開発しています。神奈川県の人なら「かながわのやぼう」ができるような。一つのアプリで47都道府県が全部遊べます。タイトルはたしか今のところ「にほんのあらそい」。各県の特産品を集めた特産品図鑑なども実装する予定ですね。例えば、和歌山県は梅が有名らしいので、梅が収穫できるみたいに。基本的なゲーム性は同じですが。
-各地の特産品を収穫できるのは楽しそうですね。
ただ県によっては特産品があんまりなくて困っているところもあるんですよね。怒られるかもしれない(笑)。宮城県は牛たんが有名ですが、収穫物は野菜か果物か魚介に限ったので使えないんですよね。栃木であれば、とちおとめが有名だからイチゴとか決められますが、大阪はたこ焼きしか思いつかなくて。強引に選んだものもあります。
―これからのアップデートと新しいアプリはとても楽しみですね!今日は長い時間ありがとうございました。
はい。しばらくは既にリリースされたアプリのアップデートが中心ですが、ゲームのアイデアのストックもたくさんあるので、期待していてください。