朝、満員電車。わざわざ郊外から都心まで通勤する方にとっては、有意義に使いたい貴重な時間。さっそく今日の仕事内容を頭の中で整理してみる。午前中はあそこに営業、午後は会議で、夕方は部下を指導して…。
…いやいや、朝の通勤時間くらいは、少しだけ会社のことから自由になって、頭に「ビジネスの知恵」をインストールしましょう。今回も電車で読める電子書籍のレビューをお届け。そのエッセンスを消化吸収していただきたい。
さて読者の中には、営業先や上司に対してうまく物事を伝えられないことに悩んでいる方もいるだろう。そもそも「自分は口ベタで…」「人前では緊張してしまい…」といったように、コミュニケーション能力の無さを嘆いている場合もあろう。こんなとき、サラリーマンはどうすればよいのだろうか。
今回取り上げる書籍は山田進一著の『魔法のプレゼン』(あさ出版)。本書は日本でわずか3人しかいないマイクロソフトMVPを受賞したという著者によるプレゼン指南書。基本的には、口ベタだろうがなんだろうが、プレゼンの「あらゆるシチュエーションに対応」できるように解説した1冊である。だいたい1時間半で読了できる。
基本的には「プレゼン」をテーマにしているが、それだけでなく「聞き手に何かを伝える」ということに苦手意識を持っている方、いや恐怖すら感じている方に対しても、大きなヒントが詰まっている本である。
さて、「プレゼンの極意」とは何だろうか? まず筆者は、それが「ウケる話をする」「分かりやすい説明をする」「センスの良い綺麗なパワポを使う」「アナウンサーのようなうまい話し方をする」というようなテクニックにはないと説明する。プレゼンの本当の極意とは、ただひとつ、「人を動かす」ことにあるのだという。
つまり、「人が期待通りに動いてくれる」よう仕向けるのがプレゼンなのである。「人を動かす」ためには、誰に、どんな行動をしてもらうのか、そのために何を話すのか、といったことをまずは考えることが重要である。
著者は、実践に役立つ「BSBの法則」を紹介する。「BSB」とは、①大きな行動を小さく分解して要求する(Breakdown)、②要求する行動を明確にする(Specific)、③行動せざるをえないように圧力をかける(Bias)、というそれぞれのキーワードの頭文字をとった法則である。
まず、聞き手(お客)には小さな行動を一つひとつ確実にクリアしてもらっていき、最終的な行動へと導くように仕向ける必要がある。たとえば、プレゼンでいきなり「契約」(大きな行動)が取れなくても、まずは「意見」を寄せてもらう(小さな行動)ことを目的とする、といった具合である。
大きな行動を小さいステップに分解したら、次は要求する行動を明確にする。たとえば、「意見」を寄せてもらうために「アンケート」をお客に提出させる、といった方法が考えられる。
そして、大きな行動を小さく分解し、行動を明確にした後は、そのような行動をせざるえないように圧力をかける。たとえば「アンケート」を提出しなければ、追加の資料は渡さない、といった具合である。そのようにして聞き手をうまく動かしていく。
本書を読んで筆者が思うのは、プレゼンの本質とは、説明を「頭で理解してもらう」だけではダメだということである。前回の『社長の教科書』のレビューでも書いたように、「人は理屈では動かない」。プレゼンでは「聞き手に何をしてほしいのか」を明確にすることが重要なのである。
結局それは、プレゼンだけの話ではなく、営業先だろうと社内の会議だろうと、自分の理論や意見を押し付けて理解させることが仕事の本質なのではないということ。話し方がヘタクソでも、聞き手からものすごく批判が出てこようとも、最終的にそれで相手が動き出してくれたら交渉は成功なのである。
では、「人を動かす」にはどうすればよいのか? これは若い社員だけでなく、管理職や社長の方にとっても切実な問題だろう。たとえば部下に命令するとき、理路整然と説明しても動いてくれないときがある。そのときはある程度「人を動かすお膳立て」をしてでも部下が動き出せる環境を作ったほうがよいのである。
本書の後半は、詳細なプレゼンテクニックもたくさん紹介されているので、目の前の相手が思い通りに動いてくれないサラリーマンの方はぜひお読みになってみてはいかがだろう。
『魔法のプレゼン』 山田進一 著
あさ出版 600円
Google Playの紹介ページ
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