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近未来SFディストピア群像劇ノベルゲーム
「月面奇譚(げつめんきたん)」は、近未来、月面都市に生きる人々の、ディストピア群像劇ノベルゲーム。
プレイヤーは絵本のように物語を読み進め、キャラたちの行動を選択する。2076年、月に築かれた街が舞台。夕暮に福音が響き、少年は覚醒していく。
貴方の選択は、波紋のように及ぶ。
近未来。飢えも戦争もない月面都市。だが、少年少女たちは知らず知らず、自分の思想、行動までもがコントロールされるようになっていた。そして、もはや主人公の無意識は完全に支配下にあった。
この、ディストピアと呼ばれる世界で主人公が、そしてもう一人のキャラがどう立ち回るか。多くの謎をプレイヤーは創造力を補助線にして紐解いていく。
実写を使った映像表現とSFのストーリー
写真を取り込んだグラフィックが美しい。また、大きく表示される明朝体のテキストもインパクトがある。これはヒントだが、文字の色には注目してプレイしていただきたい。
環境音とギターやピアノが小気味よい静かなBGMもよかった。物語を堪能するためには、音を出してプレイするか、イヤホン/ヘッドホンが必須だろう。夜に寄り添ってくれるような一作だ。
「月面奇譚(げつめんきたん)」の魅力は美しい写真と創造力を刺激するSFストーリー
ノベルゲームはいいぞ。「かまいたちの夜」で覚醒した僕は「雫」「Kanon」「Air」と物語を読む虜(とりこ)になったものだ。
超水道の「ghostpia」をプレイした人はいるだろうか?あるいは「はーとふる彼氏」でもいい。そしてこの「月面奇譚」も小ぶりなサイズながら読後感の孤独はまるで宇宙のようだ。スマホのノベルゲームも、面白いのがあるんだぜ。
感受性を刺激するSFの物語
SFに僕らは弱い。ドラえもんからシュタゲまで。それもディストピアものは大好物!ブレードランナーや20世紀少年を引き合いに出すまでもなく、気味の悪さが癖になる題材だ。
BGMと背景つきで言葉と物語を味わい、あまつさえキャラクターの行動を選択するという快楽を、スマホでどこでも、それも無料で味わえるなんていい時代になったものだ。現代もまたSFだな。
コンパクトなボリュームで1時間でクリア可能
本作は1時間ほどですべての選択肢を回収可能。語られない設定や謎が残るのが、余韻を残し、想像力をくすぐる作者の罠のようにすら思える。それこそが作品のテーマなのでは…。
エンディングのない、強化と育成を続ける、無限に戦う修羅のゲームが隆盛している中、箸休めのようにプレイしてほしい。妙に心にこびりつく作品、あるじゃないですか。本作がまさにそれ。
ゲームの流れ
冒頭から究極の選択。
「地球」か「地球外」しか選べないというあたりがよい。物語には左右しなさそうな気がする…。たぶん。
この文庫本のような映像演出。
ゲーム性は確かに希薄だが本を読み進めるような奇妙な面白さがある。
福祉は手厚く、勉強しなくても一生いきていける世界。
だが、主人公は試験に失敗し、友人たちとも疎遠になってしまった。
夕暮れ。あの感傷的な景色すら嘘だった。
だが、きっかけで主人公は覚醒する。そして事件に巻き込まれていく…。
二週目では核心に近づいていく。
SFらしい情景をMacBook Airで出してるところがなんでか好感触。
月面奇譚(げつめんきたん)攻略のコツ
物語は4個ほどの選択肢を選ぶだけで完結し、ゆっくり読み進めても1時間ほどでクリアできる。オートセーブはなく、前半と後半のスタートを選べるのみ。
すべての選択肢を選び直したいなら、プレイしつつ指2本3本で高橋名人のように文章を飛ばしていくしかない。ただ、僅かな言葉の違い、機微に気づくことこそが本作の醍醐味なのだ。
エンディングはおそらく一種類
「ときおり現れる選択肢が物語に影響します。」アプリ説明にあるその一文。確かに事実だ。
だが、恐らくこのゲーム、エンディングをほぼ変えることができない。ただ、少年の未来を少しだけ変えることはできるかもしれない。そしてプレイヤーたる我々の生き方も。そういうささやかな抵抗を描いた物語だと僕は解釈した。
感受性応答セヨ
僕は正直、このアプリが空前絶後の反響を起こすとは思わない。だが、100人のうち、何人かの心にこびりつき、ある人がゲームや物語や音楽を創りたくなり、小説家やプログラマーやミュージシャンを目指すかもしれない。そんな染み入る静かな魅力がある。
そんな、刺さる人には届く、感受性の覚醒を促すような…余韻そのもののような物語だ。ぜひゆっくりとリラックスしてプレイしてほしい。僕はこのゲームをプレイできて本当によかったと思った。本当だ。