PLAYISM代表、イバイ・アメストイ氏特別インタビュー【前編】グローバル化するゲーム業界でカギとなる「ローカライズ」という仕事

「日本のインディーゲームを世界に発信 !」

インディーゲームの連載コラム「日本のインディーゲームの未来」でもお伝えしたが、7月13日に国産インディーゲームの『LA-MULANA』のPC版が全世界で同時にリリースされ、話題を集めている。

『LA-MULANA』のローカライズを手がけ、ディストリビュートを行うのは「PLAYISM」。インディーゲームを中心とした独創的なゲームを、日本語で配信する個性的な流通プラットフォームだ。『LA-MULANA』のリリースと同時に英語版サイトを立ち上げ、今後は日本のインディーゲームも積極的に世界に発信していくという。

今回はPLAYISMを運営し、ゲームのローカライズやプロモーション、マーケティングを行う企業、アクティブゲーミングメディアの代表であるイバイ・アメストイ氏にインタビューを行った。

PLAYISM

PLAYISM

今回のインタビューでは、まだ日本ではなじみが薄い「ローカライズ」という仕事や、海外と日本のゲーム文化の違い、スマートフォン・プラットフォームの未来、日本のデベロッパーが海外進出のための戦略について、非常に濃い話を聞き出せた。ボリュームが多いため、前後編に分けてお届けする。

漫画のローカライズからゲーム業界へ

―まずは基本的なことからお聞かせください。イバイ・アメストイさんの経歴、現在の会社を作ったきっかけなどを教えて下さい。

私はもともと大学を中退して、21歳の時に日本に来ました。いま34歳なので、12、13年前ですね。最初は個人として漫画翻訳を始め、そこで「ブラック・ジャック」や「ゴルゴ13」といった漫画をスペインの出版社のために翻訳していました。

何年間かその仕事をフリーランスでした後に、ゲーム会社のマーベラスエンタテイメントにローカライズのディレクターとして入社し、そちらで3年間働きました。主にそこでは、任天堂Wiiのタイトルや「牧場物語」シリーズを欧州向きにローカライズしていました。

入社して3年目でちょうどiOSが普及してきたので、独立してローカライズ業者としてやっていけるのではないかと思い、4年前に創業しました。

イバイ・アメストイ氏

イバイ・アメストイ氏

―ご出身はどちら?

スペインです。基本的に欧州はアメリカと日本に比べたら、限られた地域で言語がたくさんあるので、我々はローカライズ作業には昔から慣れているのです。

私の地元はスペインですが、フランスは徒歩一時間くらいのところに住んでいるので、フランス語は昔から聞き慣れています。後はバスク語も話せるので、言葉を換えるという作業には全く違和感がなかったです。ローカライズの中で最も重要な翻訳という作業は最初から慣れていました。

―日本の漫画の翻訳に関わったのは、日本の文化に興味があったのですか?

もともとは「ゴルゴ13」が大好きだったのです!たぶん全巻読んでいると思います。ただスペイン語版は本当に少なかったです。たぶん6巻ぐらいしか出ていなくて。日本に来たときに、当然かたっぱしから読みました(笑)。あとまあ「ブラック・ジャック」とか結構古いものが好きですね。

―ではゲームのローカライズ業界に入ったきっかけはなんでしょうか?

そうですね、これからはゲームのローカライズ市場が大きくなっていくだろうと思い、マーベラスに入りました。その時のマーベラスは非常に好調で「牧場物語」も海外でヒットしていたので、たくさんの外国人を雇っていました。

―ゲームも、もともと好きだったり、興味を持っていたりしたのでしょうか?

正直に言えば私は漫画から入りました。読書が好きなので、小説、漫画が好きだったのです。でも、ゲームはここ最近、5年前くらいから本当にレベルが高い作品が多くて、すごく奥の深さを感じています。

ただのゲームではなくて、映画的要素や音楽も入り、ストーリーも素晴らしく、もう本当にトータルエンターテイメントになっていると思います。

―それは日本のゲームでしょうか?それとも海外のゲームでしょうか?

基本的に、日本の作品の方が多かったですね。デバック作業で知ったものも多いです。三国志関連のゲームや「メタルギアソリッド」シリーズなど。やはり、それらは素晴らしく、日本のレベルの高さを感じました。

私がちょうど業界に入ったときは、日本のゲームはまだ世界でナンバーワンだったと思います。しかしながら、iOSの普及が始まったときに、もう日本産のゲームは中身がドンドン薄っぺらになっていきました。

L10N(ライオン)――多言語地域ヨーロッパの伝統

 ―では、もう少しお仕事について細かい話を聞かせて頂きたいと思います。ローカライズという仕事が今後重要になっていくのは私も間違いないと思っています。

ただ一般の方にとっては、単なる翻訳とローカライズがどう異なるのかがわからないっていう部分があると思うのです。具体的にローカライズとはどのような仕事なのでしょうか?

なるほど。「ローカライズ」という言葉は、ヨーロッパで生まれました。我々、ヨーロッパ人はローカライズのことを「ライオン」と呼んでいます。

なぜ「ライオン」かというと、localizationと書くと 、頭文字がL、真ん中に10のアルファベット、終わりがNなんですよね。それで省略して「L10N」と書き、「ライオン」と呼びます。ただ、これは全くゲームと無関係なもので、ソフトウェアやシステムのローカライズのために、使用されている言葉でした。

―それは興味深いですね。「L10N」というのは、スラングなのですか?

大きな企業でもマニュアルなどに「L10N」って書いてあります。我々は子どもの頃からこの言葉を聞き慣れています。日本でこの言葉を使い始めたのは、つい最近ですよね。

ほんの5、6年前のことで。ただ、やはりこれからのゲームはグローバルな市場で戦っていかなければいけないですよね。以前のようなビジネススキームは存在しない。ローカライズというのは簡単に言うと、ひとつの地域のゲームを、他の地域に置き換えるということです。

ただ、ある地域の人たちがゲームを遊びやすくするために言語を換えるなり、キャラクターを換えるなりするということと思いがちなのですが、我々は二つに分けて考えています。

ダウンロード数を増やすことを目指すなら、アイコンからバナーから、徹底的に変える

ひとつは、とても良い作品の場合は、元の国の特徴をそのまま出そうとします。例えば、「ゴルゴ13」であるならば、あまりにも作品が素晴らしいので、変更してはいけないところがあるのです。ある翻訳者は「いや、私はこのスタイルの方が良いと思うから」と言っても、元々の作品をイジるというのは完全に御法度ですよね。

それこそゲームの世界ではマリオのような作品はそうです。マリオは任天堂が自社でローカライズしていますが、基本的にそのままの形でローカライズするのです。それはなぜかというと、例えば「ゴルゴ13」は、あと1000本売れようが、1000本売れまいが、まず作品を伝えるということが大事だと思うからです。

ですが、もっと小さい作品…例えば、スマホのアプリなどは、逆の事を考えます。つまり、とにかく、いかに数多くダウンロードしてもらえるかが重視され、ローカライズで変更するところは多数あります。ダウンロード数を増やすために中身を変える必要性があるのだったら、コンテンツホルダーやクリエイターと意見交換をして変更するのです。

―そういった大作以外の場合は、絵柄やキャラクターの変更もあり得るということですか?

そうです。依頼先からも、違った絵柄にしてほしいと依頼が来ますし、なんと言ってもアプリのアイコンなどを変更するのは重要ですね。バナーなどもかたっぱしから変更します。というのも、それによって、さらに1万ダウンロードを稼ぎたいと考えるので、徹底的にやりますね。

―では、そのような小さなコンテンツのローカライズ業務は、基本的にはマーケティングやプロモーションと一体になっているということですか?

そうですね。本当は予算の問題もありまして、マーケティングやプロモーションではなく、ローカライズだけやってほしいという依頼もよく受けるのです。ですが、もう少しだけ予算を使えば、もっと売れるはずなのです。特にiOSとかAndroidのゲームはそうですね。

―なるほど作品によってローカライズのやり方も変わってくるということですね。ところで、最近話題になった事例として、iOSのインディーゲーム『SUPERBROTHERS: SWORD & SWORCERY EP』がローカライズされましたよね。私は英語版と日本語版をやったのですが、かなり雰囲気が違いますが、あの作品についてはどう思いますか?

個人的にはちょっとひどいなって思いましたね(笑)。ただ、ローカライズの良し悪しは、ローカライズ会社が一方的に悪いというわけではありません。

本当に良いローカライズをするには、まずファミリアライズしなければならない。ファミリアライズというのはゲームに慣れることです。少なくとも16時間位プレイしなければいけません。

もう一つは用語集を作らなくてはならない。さらにローカライズしたゲームを納品した後にも、4、5回遊ばせてもらわないと良いものはできません。ただ、それをさせてくれるデベロッパーさんは本当に少ない。10分の1ぐらいですよね。

例えば任天堂さんは、ローカライズのなかで私は世界一だと思うのです。彼らは徹底的にそれをやるし、作品がよくなければリリースを遅らせて、完璧なもの以外は出さない主義なのです。でも小さいデベロッパーはそういったことはなかなかやれる資本力は無いですね。

―基本的には、丸投げしてしまうということですか?

丸投げするところは多いですね。そうすると、ファミリアライズする時間も、さらにゲームをプレイすることさえさせてくれないこともあります。もう、テキストだけ翻訳してくださいと。そうすると、用語集を作ったのに、アイテムが変更した結果、名前が違っているのに、そのままリリースされたりします。

ですので、ローカライズの失敗の原因がどこにあるのかを判断するのは、難しいです。たとえばカプコンさんなどは、テストプレイをする部署が最終的な判断を行うのです。彼らがプレイして、これはカプコンがリリースする品質には達成していないと判断すれば、彼らはそこでリリースを止めます。

―それは、例えば日本語から英語へとローカライズされた作品を日本の品質管理者がプレイするということですか?

いや、逆で英語の品質管理者がプレイします。 小さなデベロッパーだと、そういった品質管理部門がないので難しいです。本当は責任を持ってゲームをリリースする必要がありますので、誰かを探すなり、我々のようなローカライズ専門業者に依頼するべきだと思います。

―そういった点を考えると、小規模なデベロッパー、特にインディーゲームのデベロッパーは今後ローカライズの作業は難しくなりますね。

そうですね。ただ、比較的に安い値段でも頼むことはできますし、最終的には完成したローカライズ版を一日のテストプレイをお願いするということならば、我々はもちろんやります。我々のような業者もたくさんありますし。

本当にひどいローカライズはたくさん実際にあります。私は日本語にローカライズされたゲームを遊んでいて、ゲームの中のセリフで「すみません、この訳がわからない」っていう文章を見たこともあるくらいです(笑)。

―それはひどいですね(笑)。

もう翻訳者が納品したものをそのままゲームに入れて、ろくにプレイせずにリリースしているというわけです。現在は、そういう状況なのですよ。昔のコンシューマ・ゲームの世界では、あまりにもダメなものがあれば、ファーストパーティである任天堂やソニー、マイクロソフトがリリースを止めていました。発売させてくれないので、品質は重視されていたのですがが、最近は何でもありになっています。

―では、現在はプラットフォームがオープンになったからこそ、ある意味、粗悪なものがあふれている状況ということですか?

もちろん、そうですね。それは事実です。でも、その中でちゃんと良い作品を良いマーケティングでリリースすれば、話題にはなるし、売れるはずなのです。

PLAYISM―世界の作品を日本へ、日本の作品を世界へ。ローカライズは無料にし、レベニューシェアでの収益を見込む

 ―では話を少し変えまして、アクティブゲーミングメディアさんの提供しているPLAYISMに関してお聞きしたいと思います。アメストイさんは会社を起こしてからは、まずはローカライズの業務を中心に手がけてきたのですか?

そうですね、最初はローカライズとマーケティング、さらにクリエイティブ・デザインもやっていました。ゲームの中のアイコンのデザインなどもさせて頂いています。最初は売り上げのおそらく7割ぐらいはローカライズで、3割ぐらいはクリエイティブ・デザインだったんです。

去年の5月に日本国内でPLAYISMを開始しまして、今年の7月13日にアメリカ版のサービスをリリースしようと思っています。タイトルは20本用意しています。

―アメリカでリリースしようと思っている作品は?

基本的に日本のタイトルです。今回は『LA-MULANA』をメインのタイトルとしてリリースしようと思っています。

LA-MULANA

LA-MULANA。

―では、なぜローカライズ業務を行いながらも、PLAYISMというインディーゲームに特化したプラットフォームを立ち上げたのですか?

そうですね、基本的に我々は設立当初はコンシューマ・ゲームで働いてきた人たちだったのです。私個人はAndroidやiOS、PCゲームは非常に素晴らしいものだと思っていますし、これから楽しみにしているメディアですが、やはり作品のレベルは以前のようなものには達していない。

そこでPLAYISMのなかで、まず「遊んで面白い」というものだけを出していきたいですよね。別に開発にお金がたくさんかかっていても、かかっていなかったとしても、面白いと感じたらそれをお手伝いしたい。そこで、それらを販売はもちろんしますし、ローカライズはすべて我々が無料で行います。

―ローカライズは無料なんですか!

ローカライズは無料でやっている作品がほとんどです。マーケティングも基本的に無料です。たとえば、テキストが12万文字のゲームとかであっても、ほとんど我々がローカライズを行います。

―では、PLAYISMとしての収益はどこにあるのですか?

デベロッパーさんと我々側で七割三割というかたちで売り上げをシェアしています。三割は我々の利益としていただいています。

―つまり、PLAYISMは基本的にはディストリビューターとして利益を得ているということですか?

まさにそうですね。

―それは画期的ですね。つまり、日本のインディーゲーム、同人ゲームと呼ばれるものが、質が高いものであれば、PLAYISMさんに相談すれば、ローカライズをすべておまかせして、世界中で販売できるということですか?

そうですね、たとえばストーリーが面白いとか、個性的なゲームであるとか品質さえよければ精一杯応援させていただきますね。またPLAYISMのブランディングとして、アーティスティックなもの、ビジュアル的にレベルの高いものをリリースしていきたいと思っています。

―PLAYISMは、どういったユーザーをターゲットとして考えているのですか?

当初はPCゲームのみだったのですが、今年の末からは、PSモバイルにも我々がPLAYISMでリリースするコンテンツを移植して出していきます。また、PLAYISMの作品は、これからクラウドゲームプラットフォームであるOnLiveでも配信していく予定です。ですから、ターゲットはPCゲーマー、オンラインゲーマー、モバイルゲーマーになります。

―少しずつカジュアルな層にも拡大していくということですか?

そうですね。

―スマートフォン・プラットフォームでリリースしていくことはお考えでしょうか?

スマートフォンに関してはもう少し様子をみたいですね。私は狭い画面で遊ぶというのはすごく難しいと思うんですね。ただXperiaではPSモバイルを通して遊べるようにはなります。いま現時点で確定したタイトルは4つありまして、「Eufloria」、「Q.U.B.E.」、「ニューアクエリアム」、あとは「僕は森世界の神になる」という日本のインディーズゲームです。

僕は森世界の神になる

僕は森世界の神になる

 ―ゲームのローカライズをデベロッパーさんと契約する機会は、PLAYISMさんが見つけてくるのですか?それともデベロッパーさんからオファーがあるのですか?

半々ですね。我々のクリエイション部門もあり、色々なイベントに参加して、面白いゲームがあると声をかけて交渉したりもしています。後はデベロッパー様が、我々が無料でローカライズしているという噂を聞いてご連絡いただく場合も多いです。

―なるほど、ではこれからも数多くの個性的なゲームがPLAYISMからリリースされることが期待できますね。

インタビュー後編に続く)

筆者: アプリゲット編集部

今井晋

この記事を書いた人:今井晋 | アプリゲット編集部

高校生クイズの地方予選で決勝まで残ったことのある頭脳の持ち主。東大卒のエリート。いま旬なAndroidに関連するゲームやニュースに関して多大な興味を抱くライター。