【連載:インディーゲームの新時代⑤】日本のインディーゲームの未来

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執筆者:編集部

インディーゲームについて5回にわたって連載してきた本コラム。振り返ってみてもコラム連載中の間、インディーゲームに関わる様々な出来事があった。ドキュメンタリー映画『Indie Game: The Movie』の公開(近々、日本語字幕に対応するという話もある!)、大規模な合同セール「Because We May」、Humble Indie Bundle VIndie Royale Summer Bundleなどのバンドル売り。

さらに現在、何度か紹介したPCゲームのプラットフォームであるSteamで大規模なサマーセールが行われている。Steamでは、メジャーなタイトルの大特価セールとともに、インディーゲームのバンドルなども販売され、日本のゲーマーたちにも海外インディーゲームはますます身近なものになってきている。さらに運営会社のValveは、「ユーザー投票によって配信するゲームタイトルを決める」というSteam Greenlightというプロジェクトを始動する予定。これによって、ますますインディーゲームのリリースが増えるだろう。

このように極めてダイナミックな展開を見せる海外インディーゲームシーン。本コラムでその片鱗を少しでも伝えられたものと願っている。翻って、連載最終回の今回は「日本のインディーゲーム」事情について扱いたい。

海外での評価が先立つ日本の「インディーゲーム」

7月13日に国産インディーゲームの『LA-MULANA』のPC版が全世界で同時にリリースされ、話題を集めている。『LA-MULANA』はもともとPC用に作られた2Dアクションのフリーゲーム。国内インディーデベロッパーであるNIGOROは、2011年にWiiWareに移植したものの、海外でのWiiWareの市場が衰えていったため海外版はリリースされなかった。今回のPCへの再移植によって、ようやく海外ゲーマーにも良質な国産インディーゲームをお披露目する機会になった。

また既に、グローバルに成功を収めた国産インディーゲームといえば『洞窟物語』を上げることができる。2Dアクションゲーム『洞窟物語』は開発室PixelのPixelさんこと、天谷大輔氏が一人で制作し、2004年にリリースされたPC用のフリーゲームである。国内のフリーゲームシーンで圧倒的な人気を獲得し、ファン有志によって英語版やMac OS、Linuxバージョンもリリースされ、世界中から大絶賛された名作だ。

ただし、日本国内の主要メディアやゲーム産業が『洞窟物語』に注目するのは極めて遅かった。いわゆる「インディーゲーム」として『洞窟物語』(英語版ではCave Story)が注目されたのは、海外の方が圧倒的に早かったのである。

Daisuke_Amaya

天谷大輔氏の講演の様子。(撮影:Game Developers Conference)

2010年にアメリカのインディーゲームのパブリッシャー兼デベロッパーであるNicalisが北米版Wiiwareに『洞窟物語』を移植すると、一気に人気を獲得し、その後、ニンテンドーDSのコンテンツプラットフォームである北米版DSiWareにも移植された。ゲームクリエイターとして世界中からの注目を浴びた天谷氏は、2011年の3月にサンフランシスコで行われたGame Developers Conference(GDC)に招待され講演を行うことになった。日本人の個人制作者がGDCのスピーカーとして招かれたのは、これが初となり、まさに快挙とも言える出来事であった。

この「事件」は日本の各種ゲームメディアでも報道されたが、2011年の当時、日本では『洞窟物語』は未だにPC用の「フリーゲーム」でしかなかった。海外からは「コンソール(家庭用ゲーム機)天国」と呼ばれる日本のゲーム文化の中では、未だPCゲームは圧倒的にマイナーな存在だ。ようやく、2011年11月に国内版DSiWareがリリース(現在は配信終了)され、今年の7月26日にニンテンドー3DS版の『洞窟物語3D』が日本一ソフトウェアから販売される。

洞窟物語3D

ゲームの面白さはそのままにグラフィックが3Dになった。

オリジナル版がリリースしてから、8年という歳月をかけてリリースされる3DS版の『洞窟物語3D』。初期の頃から大ファンであった私(「血塗られた聖域」が4分台であると言えば分かってもらえるだろう)にとっては、感無量の凱旋移植(?)であるわけだ。しかしながら、正直言えば、『洞窟物語』に対する国内での評価の遅さには苛立ちを隠せなかった。

個人制作で無料のコンテンツでありながらも、同時代のコンシューマーゲームに決して引けをとらないクオリティである『洞窟物語』。日本のクリエイターのレベルの高さを示す格好の事例であるにも関わらず、商業的なメディアで話題にされることはこれまで非常に少なかったのである。『洞窟物語』以外にも、国内の個人制作者や同人サークルが作った素晴らしいゲームはたくさんある。しかしながら、海外のインディーゲームシーンの盛り上がりに比べると、日本国内の「インディーゲーム」は今ひとつ盛り上がりに欠けている。

以下では、その原因と今後の展開について、まずは日本独自の文化である「同人ゲーム」と「フリーゲーム」の歴史をたどりつつ考えてみよう。もちろん、日本の個人や小規模グループによるゲーム開発の歴史の全体像を描くことは、私の力量を超えている。そのため、内容に偏りが生じることをあらかじめご容赦いただきたい。

同人誌即売会と共に成長した同人ゲームの文化

そもそも個人でビデオゲームの開発が可能になったのは、80年代にホビーパソコンが普及して以降である。Windows以前のこれらのPCでの開発は、基本的にBASICによるプログラミングであった。BASICユーザーの拡大に伴い、出版社からホビーパソコンでのプログラミング向けの雑誌が多く出版された。そして、これらのホビーパソコンで作成された「同人ソフト」(当時の呼称)は、コミックマーケットや秋葉原の電気街でなどで販売され、現在につながる「同人ゲーム」の文化につながる。

一方、90年代に入り、Windowsを搭載したPCとインターネットが普及するにつれて、個人でのゲーム開発環境は当然変化した。Windowsでのゲーム開発は、当初はそれほど容易ではなかったらしい。プログラムの実行速度などでは、Windows以前の開発環境の方が強く、一時期のコミックマーケットではゲームサークルが消えたと言われる。

だが徐々に、Windowsでのゲーム開発環境の整備やインターネットによる知識の伝達などが手伝って、90年代後半から、再び同人ゲーム制作が活発化した。「吉里吉里」、「Nscripter」、「DXライブラリ」といったゲーム開発のためのスクリプト言語が登場したことも大きい。特に、これらのスクリプト言語は、ノベルゲーム開発に使用されることが多く、90年代末から00年代の同人ゲームからはTYPE-MOONの『月姫』や07th Expansionの『ひぐらしのなく頃に』などの大ヒットする作品も生まれている。

また、そもそもこの時代のPC用成人向けノベルゲームの数々は、コンシューマー向けゲームとは異なり、非常に小規模なデベロッパーによって開発されている。アダルトゲームを含むこれらも、見方によっては日本の「インディーゲーム」とみなすことも可能だろう。近年、これらのアダルトゲームを開発してきた小規模デベロッパーは、一般向けのノベルゲームをコンシューマー機でリリースするようになってきた。そして『STEINS;GATE』のような成功を収める事例も出てきている。

一方で、改良されたWindowsのDirectXを使用する同人ゲーム開発者も増え、アクションゲームやシューティングゲーム開発のための、ライブラリも多く登場した。ノベルゲームと異なり、これらのゲームは動作のために、一定のPCのスペックが必要であったため、ノベルゲームほどメジャーにはならなかった。それでも90年代末から00年代には、渡辺製作所の格闘ゲーム『THE QUEEN OF HEART』や『MELTY BLOOD』、今ではモンスター級のタイトルの上海アリス幻樂団の「東方Project」のシューティングゲームなど質も人気も高い作品もリリースされた。

東方神霊廟スクリーンショット

今やモンスター級のタイトルの東方Project。

言語の壁があるノベルゲームに比べると、これらのアクションやシューティングゲームは海外での認知度は高い。これらの同人ゲームのビッグタイトルのいくつかは、海外でも評価されている日本の「インディーゲーム」と呼べるだろう。

(以上の同人ゲームと技術の変遷については、以下の論文が詳しい:
三宅陽一郎「日本における同人・インディーズゲームの技術的変遷」
http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/digraj/miyakedigraj0501.pdf

パソコン通信やインターネット上で展開したフリーゲーム文化

またこれらのコミックマーケットを中心とした同人文化とは、若干距離を置きながら、インターネットが普及する以前のパソコン通信のころから「フリーゲーム」の文化が存在していた。特にアスキーネットを中心として活動したフリーソフトウェア制作グループ「Bio_100%」の存在は大きい。主にPC-9801でのゲーム開発を行なっていたが、WindowsやDirectXをいち早く取り入れ、90年代のフリーゲームでは突出した存在であった。

(「Bio_100%」と当時のフリーゲーム文化については、公式ページを参照詳:
http://bio100.jp/introduction/index.html

インターネットの普及以降も、日本では無料でダウンロードするフリーゲームの文化が形成され、多くの個人や小規模グループで制作されたゲームが発表されている。それらのフリーゲームは「Vector」、「窓の社」、「ふりーむ!」といったオンラインソフトウェアのダウンロードサイトで流通され、それらのサイトが行うコンテストや賞、また外部のレビューサイトによって評価されてきた。先述の『洞窟物語』も、インターネット以降のフリーゲーム文化から誕生した作品である。

また、これらの多くのフリーゲームは、初心者でも比較的に簡単にゲームを作れるソフトウェア「ツクールシリーズ」で制作されていた。「ツクールシリーズ」の歴史はかなり古く、インターネットが普及する以前から存在し、コラム第3回で触れた海外の3Dゲームエンジンが登場するのに先んじて個人制作向けのゲーム開発ツールを提供していた。特に日本で人気があるゲームジャンルを反映して、「RPGツクール」で制作されたフリーゲームが圧倒的に多い。

もちろん、昨今のゲームエンジンと比べれば、「ツクールシリーズ」で制作されるゲームが表現できる部分は非常に限られている。しかしながら、フリーゲームの世界は、手軽かつ制作者もユーザー数も多いため、開発、流通、評価の規模が相対的に大きい。その結果、ストーリーやゲームシステムに関しては非常に優れた作品が生まれることになった。

ibスクリーンショット

個性的で美しいドット絵も魅力の『Ib』。

「RPGツクール」を使用しながらも、シュールなアドベンチャーゲームとして話題になった『ゆめにっき』、美術館を舞台としたホラー要素のあるアドベンチャーゲームである『Ib』など、昨今の「ツクールゲーム」は国内での人気だけにとどまらず、海外でも高く評価されている。これらの「ツクールゲーム」は、海外の人々からすれば、まごうことなく日本の「インディーゲーム」であるだろう。

第三の勢力としてフィーチャーフォンとスマートフォンにおける個人制作ゲーム

またこれらの「同人ゲーム」や「フリーゲーム」とは、異なる文脈に存在する日本独特の個人制作のゲーム文化がある。スマートフォンが登場する以前に、日本ではフィーチャーフォンの普及によって世界に先駆けてコンテンツダウンロードのプラットフォームが形成されたことはよく知られている。

携帯アプリの形で遊べたそれらのゲームは、現在ではソーシャルゲームの圧倒的な勢いのために、忘れ去られがちである。だが、ゼロ年代の日本でかなりのユーザーに遊ばれたこれらの携帯ゲームの多くが個人制作や小規模のデベロッパーであったことは間違いない。

それらの開発者たちは現在、スマートフォンプラットフォームに移行しつつある。だが、世界的に活躍するカイロソフトのような一部の事例を除けば、まだまだスマートフォンでの開発環境に対応しているとは言い切れず、フィーチャーフォン時代のUIを引きずったままの携帯ゲームの移植などが未だに多い。

とはいえ、今後、国内の「インディーゲーム」が存在しうる場所として、スマートフォンほど魅力的なプラットフォームはないだろう。というのも、比較的小規模な開発費でもアイデア次第では勝負することができ、App StoreやGoogle Playといった極めてオープンなプラットフォームで自由に販売することが可能だからである。

実際に、『洞窟物語』の開発室Pixelが、現在iOS向けに新作を制作しているように、他のプラットフォームで活躍したクリエイターが今後スマートフォンで新作をリリースすることも多くなるだろう。また、PCでリリースされたノベルゲームをスマートフォンに容易に移植する技術が開発されたり、スマートフォン向けノベルゲーム専用のゲームエンジンが開発されたりしつつあり、ノベルゲームにおいてもスマートフォンプラットフォームが主戦場となることが予想される。

Indie Game: The Movie』で扱われたインディーゲームは、すべてXBox360で遊べる作品であった。インディーゲームが一定の規模を超えて認知されるには、コンソール天国である日本ではなおさらのことだが、PC以外のプラットフォームで活躍する必要がどうしてもあるだろう。同人サークル「犬と猫」の『レミュオールの錬金術師』や、Omega氏の『Every Extend』、UEEの『三十秒勇者』など、パブリッシャーが関わる形でコンソール機でリメイクされた日本の「インディーゲーム」も存在する。しかしながら、デベロッパーが「独立した立場」からゲームをリリースするには、よりオープンな流通プラットフォームが必要となるだろう。

鍵となるのは有料ダウンロード販売の普及

以上のように、日本の「インディーゲーム」と呼べるものは、これらの同人ゲームやフリーゲーム、携帯ゲームという既存の文化の中に潜在的存在している。しかしながら、それぞれの文化が独特に発展しているため、海外のインディーゲームのように統一的なシーンやコミュニティが形成されてこなかった。

もちろん、即売会などリアルな場でのコミュニケーションを重視する同人ゲームの文化や、無料で気軽に遊べるフリーゲームの文化には、それぞれ独自の良さもある。すべての小規模なゲーム開発者が、海外のインディーゲームのようなシーンを築くべきだとは、まったく思っていない。だが、「日本のゲーム産業」というマクロの視点からは、これらの小規模開発者を活性化させられるかどうかは死活問題である。ゲーム産業がグローバル化する中で、大企業よりむしろインディペンデントなデベロッパーの方が、イノベーティブでクリエイティブな表現が可能になることが多いからだ。

そのために鍵となるのは、第一に有料ダウンロード販売の文化の育成である。海外のインディーゲームは、各種コンソールやPC向けの流通プラットフォームを通してダウンロード販売される。本コラム第1回で触れたように、ダウンロード販売は流通コストが圧倒的に安価で簡単に購入が可能であるため、小規模開発者の参入が容易である。

各種プラットフォーム

デジタルダウンロード販売を行う各種プラットフォーム。

これらの流通プラットフォームは既に日本でもインフラとして整備されつつあるが、デベロッパーやユーザーにはまだまだ浸透しているとは言いがたい。音楽などの他のコンテンツ産業においても、日本は未だにパッケージ販売が根強く、ダウンロードコンテンツを課金して楽しむ文化は根付いていない。大手ゲーム会社もビッグタイトルを国内でダウンロード販売することは、海外に比べて非常に少なく、ダウンロード販売の文化の育成の足を引っ張っている印象すらある。

またインターネットの普及期から存在する「Vector」、「窓の社」といったオンラインソフトのサイトでも、ゲームは流通しているが、ほとんどは無料ゲームばかりで、有料ゲームが注目されることは非常にまれである。他方、「DLsite.com」のようなオタク系コンテンツのダウンロード販売のプラットフォームも存在するが、そこで流通するのは主に同人誌やアダルトゲームといったジャンルが中心である。

つまり、パッケージ販売中心の「同人ゲーム」、無料でダウンロードされる「フリーゲーム」というそれぞれの文化的特性ゆえに、「有料ダウンロード販売」という文化の普及が遅れているのだ。ただ、近年になっていくつかの興味深い例外が登場しつつある。

同人ゲームサークルEasyGameStationのRPG『ルセッティア~アイテム屋さんのはじめ方~』は2007年にコミックマーケットでリリースされた作品だが、インディーゲームのローカライズを手がけるCarpe Fulgurが英語版をSteamなどのプラットフォームでリリース、なんと発売1ヶ月で2万6千本販売され、現在では10万本を超えるヒットを飛ばしている。ローカライズを手がけたCarpe Fulgurとしても、これは予想外の大成功であり、これを機に日本の同人ゲームの海外展開に業界が注目をし始めている。

Carpe Fulgur以外にも、日本の同人ゲームを積極的にローカライズして販売する海外パブリッシャーは増えている。例えば、イギリスのNyu Mediaは日本の同人ゲーム『SATAZIUS』(ASTRO PORT)、『まんけん!』(atelier773)、『ETHER VAPOR Remaster』(えーでるわいす)、『花咲か妖精フリージア』(えーでるわいす)のローカライズを手がけ、「日本のインディーゲーム」としてカプコンUSの販売プラットフォームなどからダウンロード販売している。

またカルフォルニアのRockin’ Androidも、神奈川電子技術研究所の『Qlione Evolve』、Platine Dispositif(紫雨飯店)のシューティング三部作『Gundemonium Collection』、橙汁のシューティング「スグリ」のシリーズ『Suguri Perfect Edition』、『Acceleration of Suguri X-Edition』や『空飛ぶ赤いワイン樽』、Classic思考回路の『クレセントペールミスト』といった質の高い同人ゲームのローカライズを手がけ、SteamやPSNでダウンロード販売している。

以上のように、ローカライズを受けて海外でのダウンロード販売でヒットを飛ばし、評価される日本の同人ゲームが登場したのは非常に喜ばしいことである。しかしながら、これら日本の「インディーゲーム」の海外での活躍が日本で報道されることも少なく、さらに日本国内では未だほとんどのゲームがパッケージ販売に頼っているという現状がある。

この状況を変化させるには、海外のパブリッシャーを見習い、国内でも質の高い作品を発掘して、積極的に広告と販売を行い、丁寧なサポートを行う優良なパブリッシャーが登場する必要がある。冒頭で紹介したPC版の『LA-MULANA』は、インディーゲームを中心にローカライズを手がけ、独自のプラットフォームでダウンロード販売を行う国内のサービスPLAYISMでリリースされた。PLAYISMはこれまで、海外のゲームの日本語化を手がけてきたが、『LA-MULANA』のリリースと同時に英語版サービスも立ち上げ、今後も日本の「インディーゲーム」を世界に販売する意気込みを見せている。(なおPLAYISM代表のイバイ・アメストイ氏にはインタビューを行った。後日公開するのでぜひとも楽しみにしておいて欲しい。)

コミュニティの形成とメディアの責務

このように徐々に日本でダウンロード販売が普及すれば、自然と「日本のインディーゲーム」というシーンが浮かび上がってくるだろうと期待している。またコラム第2回で紹介したクラウドファンディングのような新たな資金調達の手段も日本で始まっている。開発、流通、販売、資金調達といった面のインフラ整備は、国内でも着々と整ってきている。後は「日本のインディーゲーム」を支える開発者、ユーザー、メディアのコミュニティが成立することが必要であるだろう。

現状のフリーゲームや同人ゲームにおいては、流通や課金の面だけではなく、文化の違いも存在する。そのため、開発者、メディア、ユーザーの各レイヤーで、それぞれフリーゲームと同人ゲームは微妙に異なったコミュニティを形成している。特にメディアが果たす役割は大きく、ネット上にはフリーゲームのレビューサイトが古くから存在するが、基本的に有料の同人ゲームを扱うことは稀である。また同人ゲームは、ゲームのジャンルや二次創作の元ネタなどでコミュニティやメディアが形成されているため、統合的なメディアが育ちにくくなっている。

他方、海外インディーゲームを扱うメディアは、小規模なデベロッパーのものであるならば、有料であれ、無料であれ、同様に扱っている。さらにはPC以外のプラットフォームを扱うことも多く、コミュニティの規模が相対的に大きい。またそのようなインディーデベロッパーの作品を評価し、表彰する「Independent Games Festival」(IGF)などのイベントも存在している。(昨今では、IGFがインディーデベロッパーの馴れ合いと誇大宣伝の場所になっているという批判もあるが。)

個人的にフリーゲームや同人ゲームに注目してきた私は、日本の小規模なゲーム開発者のレベルは、海外に決して負けていないと思っている。海外インディーゲームと同様のインフラが整備されてきた昨今、それらの小規模な開発者たちが活躍する舞台は整った言える。これから必要なことは、ダウンロード販売をユーザーに根付かせ、質の良いゲームを積極的に評価、紹介していくことである。そして、それは我々メディア側の人間の責務だろう。

広告を出稿してもらえるような大手ゲーム会社と異なり、インディーゲームをメディアで取り扱うことは、経済的なメリットが少ない。しかしながら、長期的な観点から見れば、ゲーム産業におけるイノベーションはインディーゲームで起こる可能性が高い。フリーゲームや同人ゲームの素晴らしい作品に出会い、楽しみ、感動してきた私のような人間にとって、本コラムを通じて、「日本のインディーゲーム」がますます活発になり、ゲーム業界の未来を切り開いていくことに期待している。

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執筆者: 編集部